序 出会い

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序 出会い

「どけどけ! 小童どもッ」  邪魔だ! とわめきながら腕を振り回す烏帽子の男たちにあぐりたちが追い散らされたのは、正暦(しょうりゃく)四年(九九三)の初夏のことだった。 平安京、西の右京。といっても田んぼへの急な勾配がある土手に、あぐりは仲間たちと共に突き飛ばされた。若い稲穂が風にそよぐ緑の田の中へ危うく転がり落ちかけて 「なんだい、乱暴な」  土手の途中で踏みとどまり、あぐりは振り返った。持参していた籠は手元にあったが、盛っていた葉をつけたコカブは足元に散乱している。 「ははは! あいつらを見ろ。泥人形だぜ!」  土手の上では腰に刀を差した烏帽子の五人組が、あぐりの向こう、田を縁取っている畔を指さして腹をかかえて笑っている。 「……織部! 悟助!」 見ると仲間の少年二人が泥の中に落ちていた。コカブを拾うのも後回しに、あぐりは土手を降り、二人に近づいた。 小さな体に青い顔の織部が、両足から着物の肩までを泥で濡らし、尻餅をついた姿勢でぼうぜんとしている。対照的に大柄な悟助もまた泥まみれではあるものの、いまいまし気に舌打ちしながら織部を助け起こそうとしていた。
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