一 鬼っ子

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右手に持った扇子で自分の肩をトントンとたたき、左手には太刀をたずさえたまま隆家は織部の前まで進んだ。その様子を、あぐりはまじまじと見あげた。隆家が声をかけた。 「織部と申すのか。言いたいことがあるなら聞いてやる。直言を許す」 「いけませぬ」  武者が表情をこわばらせる。 「中関白(なかのかんぱく)家の一族にして中納言であらせられる隆家さまが、いやしく汚れた民草の声をじかに耳に入れるなど、あってはならぬこと」 「さようです。どうぞお慎みになってください」 「バカバカしい」  尊大にあごをあげ、隆家は笑顔を見せた。 「おれはここに、法王の挑戦を受けて戦(いくさ)遊びをしに来たのだぜ。けがれなど、恐れるものか。おい、織部とやら。言いたいことを申せ」  織部は全身から力が抜けたようだった。路上にうずくまった姿勢で、たどたどしく口を動かした。 「こ、ここで戦となれば、道にいる人々が巻きこまれ、怪我をしてしまいます……。どうぞ、このまま……お引き取りください」 「なに? それだけか」 「は、はい……」  緊張して心を震わせている織部とは対照的に、隆家は悠然たるものだった。
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