頬に落ちる、透明な君

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「夏向くん。君、死にたいって思ってるんでしょ?」 満天の星空の下。 人工的な光すら見当たらない真っ暗な河川敷。 二人の体温に虫が寄るのも気にしないまま、俺は鳴美さんの隣に肩を並べていた。 そして冒頭の言葉だ。 なぜこうなったのか… 俺も未だに訳がわからないが、とりあえず俺が鳴美さんに連絡をしたら、気がついたら呼び出されてて気がついたら学校の近くの河川敷に二人で座っていたということだけは覚えている。 「…何で分かったんですか?」 「分かるよ。顔を見ればなんとなくね。ありきたりかもしれないけど、夏向くん、死んじゃだめだよ?」 「分かってます…。こんな気持ち、誰にも理解されないってことも。本当に死んだらきっと後悔するということも…分かってますよ」 小学5.6年くらいからだ。 俺は、常にいつ死んでもいいと思うようになっていた。 いじめられたとか家庭環境が複雑だとか、そんな特殊な事情はない。 ただ、俺の人生をこのまま生きていく自信が無い…… そんな漠然とした不満と不安と厭世観。 だから、鳴美さんの言わんとしていることはすぐに分かる。 俺とて、今すぐ死の必要に迫られているわけではないのだから。 「…鳴美さんは、そんなことを考えたりしないんですか?」 何気なく紡いだ言葉の隙間に、夏の夜の冷たい空気が吹き込まれたような気がした。 鳴美さんは俺の質問にフッと優しく笑って、小さく頭を振った。
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