【赤】1話 

4/13
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。ゆっくりとコーヒーを喉に通すといつもより苦味を感じた気がした。 「‥‥。冗談でしょ?」 「冗談じゃないよ。桜花学園に一年くらい臨時講師してきて」 優雅にコーヒーを飲み、うん。やっぱりこのコーヒーは美味しいね、なんて呑気な事を言ってニコニコしてる父に項垂れる。この笑顔をした時はロクなことが無い。認めたくないが本当のことなんだろう。 「何で私が‥。そもそも教員免許持ってないし」 「大丈夫だよ。臨時講師だから免許はいらないから」  ため息を盛大に吐く。父の言動はいつも突飛してて意味がわからない。父を睨みつけると流石に少しバツが悪そうに口を僅かに萎ませた。 「いやぁ‥。あの人の頼みは断れなくて。京ちゃんも良く知ってるママの幼馴染の東堂さんって人」  その名を聞いてまた項垂れる。美人で優しく女性なのに紳士的でスパダリという言葉が似合う人。正直、父よりもカッコいいと思う。幼い頃から会うたびに甘やかされている東堂さんからの頼みなら私も断れない。 「へぇー。で?なんで私なの?」 いつもより少し高い声で笑顔を作りながら嫌味のように言うと「ママにそっくりだ‥」と視線を逸らされた。 「僕は忙しいから京ちゃんは、どう?って言ったら喜んでいたよ」 父はちびちびとコーヒーを飲み始め私は頭を抱えた。喜んでいたということはあっちも了承済みということだろう。これはもう決定事項だ。 「わかった。行けばいいんでしょ」 「ありがとう京ちゃん。僕はママと離れたくないからねー」 すぐさまニコニコ笑顔になった父の脛を蹴ろうか悩んだが呆れすぎてそんな事どうでもよくなった。    
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!