【赤】1話 

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3月下旬。 まだ少し肌寒い季節。桜は花を咲かそうと芽を出し、少しずつ春の訪れを感じる時期。桜が満開になると美しい並木道になるこの通りは今はどこか淋しげに見える。でも、道路脇に一本だけ佇む綺麗に咲き誇る梅の花を見て春はもうすぐそこまで近づいているのだと感じた。 暫く車を走らせると今日から通う高校が見えてきた。流石は私立の学校でとても綺麗で立派な校舎だった。 中学生時代の私は朝早く起きるのが嫌だという理由だけで一番近い公立の高校を選んで当時の担任が泣いていた。「あなたの偏差値ならどこの高校でも受かるのに」と散々言われたが無視して公立の高校に進んだ。今となってはあの時は少し悪いことをしたかも知れないと思うがやはり朝起きるのは今でも苦痛なので、担任には悪いがあの時の判断は間違っていなかったと思う。   正門が見えてきて外に立っている警備員の前に車を停止させ窓を開け声をかけた。 「本日から臨時講師でこちらに来ました。月宮 京と申します」 軽く会釈をすると警備員は帽子が落ちないよう鍔を押さえてお辞儀をした。 「おはようございます。お話聞いております。ここから真っ直ぐに行き少しするとまた門がありますのでそちらからお入りください」 警備員が指を刺した方を見ると少し先にまた門があるのが見えた。 「わかりました。ありがとうございます」 窓を閉め車を走らせ言われた門のところに行くとまた警備員がいた。連絡があったのかすんなり入れてもらい車を駐車される番号の紙を貰った。 「迎えの人が来るとのことですのであちらの木の近くでお待ちいただけますか?」 「わかりました」 車を止め先程言われた木の近くまで足を進めた。今はまだ芽が出てないが立派な桜の木は圧巻だった。咲いたらさぞ綺麗なんだろうなと思いながら空を見ていると「京」と聞き覚えのある声で呼ばれた。
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