2022/9/22 「すれ違い」

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「なによ、これ、、、」 旦那と結婚して早三年。新婚感は薄れてきたかもしれないが、これでも熱々にやってきたつもりだった。このノートを見るまでは。 「マル秘エロノートって何?今どきノートに書くエロいことって何よ。あの人がこんなものを書く人だったなんて。」 手元には赤ペンでマル秘と書かれたエロいノートがある。たまたま部屋の掃除をしていた際に、ベッドの下でも鍵付き引き出しの中でもなく机の上にでかでかと置いてあったのを見つけてしまったのだ。私の旦那はとにかく真面目な人で、高校の時は夏でもワイシャツのボタンは一番上まで閉めていたし、バリバリ理系で眼鏡をかけているtheインテリ系という感じでこのようなものとは無縁の人だと思っていた。しかし本当はエロ本では飽き足らず自作のエロノートを書くような人だったなんて。私の中の真面目でしっかり者だがたまにツンデレな可愛い夫像が音を立てて崩れていくのを感じた。 「いや、でもエロいノートを自分で作るって。どんなエロイこと書いてあるのよ。エロ本ではもう我慢できなくなったってこと?そこまで高度なエロさ私持ってないわどうしよう。」 旦那のエロ本ならぬエロノートを見つけてしまったというショックと、そこまでのエロさを自分では出せないという焦りからか地べたに座り込んでしまう私。 「えー、もっと夜の方頑張った方がいいのかしら。でも私そんな専門的な知識持ち合わせてないし、性的発散ができないせいでなんかヤバい人と浮気なんてされたら立ち直れない。」 いくらエロ魔人と言えど愛しの旦那に変わりはない。こんなノートを書くぐらい欲求不満なんだとしたら妻の私がどうにかしてあげないとと思い立ち、私は旦那が帰ってくるまでの数時間でエロノートならぬエロい作戦を立てることにした。 「でもあの人そこまで積極的に求めてきたりしないからそういう欲求があまりない人なのかと思ってたけど、やっぱりむっつりスケベって存在するのね。」 いったん落ち着こうと思い入れたアールグレイを飲みながら必死にエロイことを考えてみるが、全く思いつかない。 「やっぱり定番のあれかしら。ご飯かお風呂かそれとも私?ってやつ。でもあれって興奮するのかしら?言葉だけじゃエロ魔人を攻略することなんて不可能なんじゃ。」 旦那は自作のノートを書くほどのエロさを持ち合わせているのだ。言葉だけじゃもう興奮できないに違いない。 「あっそうだ!言葉がだめなら視覚に訴えればいいんだわ。裸エプロンなんてどうかしら。男の人ならみんな好きって美姫が言ってた気がする。」 エプロンならもちろん主婦ですから家にいくつかある。ちょっと汚れてはいるものの何とかなるだろう。 「やだそんなこんなしている間にあの人もう帰ってきちゃうじゃない。じゅ準備しないと。」 時計を見るともう七時過ぎ、私は混乱した頭のままとにかく準備をすることにした。 ー---------------------------------- 「あすかぁー、ただいま、あ?!」 「おおー、おかえりなさいあなた。ご飯にする?お風呂にっ、す、する?それともぉっ、わわわ私っ?」 後半あまりの恥ずかしさから噛み噛みになってしまった。あぁ、怖い、旦那の顔が見れない。何してるんだろ私。こんなことであの人を満足させられるの?心も、エプロンしかない体も寒いわ。 「い、一体どうしたんだよ!そんな恰好じゃ風邪ひいちゃうじゃないか。」 「それだけ!?私あなたの為に頑張ったのに。やっぱり魔人レベルはこんなんじゃ満足できないっていうの?」 恥ずかしいやら悲しいやらで泣き出してしまう私。 「魔人ってなんだ?どうしたんだよ一体。」 旦那は戸惑いからか11月なのに汗をびっしょりかいてしまっている。それもそのはず、家に帰ったら玄関で奥さんが鬼の形相で裸エプロンで待ち構えてるんだから。でも、それも全部 「あなたのせいじゃない!!」 私はマル秘エロノートを旦那の顔めがけ全力で投げた。これでも元ソフトボール部、コントロールをなめてもらっては困る。私の悲しみの一投は見事彼の顔にクリーンヒットしたのだった。 「ぐへっ、いったいよ。なんだこれ。」 「なんだってあなたのノートでしょ。きれいな字でマル秘エロノートって書いてあるじゃない。ごまかしたって無駄よ。知らなかった。あなたがこんなのを書くぐらいエロい人だったなんて。だから、私がんばったのにぃ。」 「エロノート?え?何言ってるんだ。これIDノートだよ。」 IDってなんだっけ?予想とは違う答えになかなか理解が追い付かない。 「ID?エロじゃないの?」 「いろんなパスワードとか全部覚えておけないだろ?だからノートにまとめてたんだよ。マル秘って書いてあるじゃん。」 まさかのすべて私の勘違いで、波乱の夜は明けたのだった。 ー---------------------------------- 「これがあなたがこの世に誕生した日の出来事よ。」 学校で自身の誕生秘話について授業で発表することになったから、お腹にいた頃の話を聞かせてもらおうと思ったのに。まさか作った日の話をされるとは思っていなかった。心なしか照れた顔で二やついている母さんが恨めしい。まあだけどそんな些細な勘違いで俺が生まれるなんて人間ってバカだよな。
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