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幼い子どもが二人いる。二人の子どもは茜色に染まる夕暮れ時に並んで座っていた。近すぎず遠すぎない二人の絶妙な距離は、まるで彼らの関係性を表している様であった。
「なぁ」
少年は不敵な笑みを浮かべながら立ち上がりそういった。少年の笑顔と呼びかけは、すぐそばにいた同じ年頃の少女へと向けられていた。少女は少年の様子をぽーっと見とれた様子で眺めていた。
だが、話しかけられていることに気付いた少女は、すぐに返事をした。
「ど、どうされましたか?」
口調はどこかよそよそしく少年に気を遣っているかのようであった。
「俺にはさ、夢があるんだ」
「夢ですか?」
「あぁ、俺はいつかばぁちゃんみたいな偉大な魔女になりたいんだ」
「・・・・・・魔女?」
少女は首をかしげる。そして、少女は少年の決意に満ちたような澄みきった瞳に見とるかの様に呆然としていた。
「そう、世界中の人々から尊敬される偉大なる魔女に俺はなりたい、そのために俺は必至で生きるっ」
大きく声を上げた少年の声に、少女は体を跳ね上げて我に返った。
「あの、どうして魔女になりたいのですか?」
「この世界には幸せが足りないからって、ばあちゃんが言っていた、俺もそう思う」
「幸せ?」
「そうだ、そしてそれを癒せるのは魔法の力だ。だから俺は偉大な魔女になっ
て世界を幸せの魔法で満たしたいんだ」
「幸せの魔法?」
少女は首をかしげる、少女が発する言葉はすべて疑問形だ。それは少年の言っていることがまるで理解できていないかの様であり、現に少女は困惑した様子だった。
「えっと、えっと・・・・・・」
少女は困惑した様子で頭を抱え、少年はそんな彼女の様子を見て微笑んでいた。
「幸せの魔法だよ、婆ちゃんは誰もが使えるって言ってたけど、それをちゃんと使いこなせる人は少ないんだって言ってた」
少年は自信に満ち溢れた表情をしている。少女はそんな少年の顔を見て表情を暗くした。
「・・・・・・私も、幸せになれるでしょうか?」
俯きながらつぶやく少女の言葉に、少年は一瞬キョトンとしたがすぐに笑った。すると、少年は少女の元へと歩み寄り、彼女の頬に手を添えて少し撫でた。
「幸せになれる、いや、俺がしてやるよ」
少女は少年の手の感触を感じると、血色の悪い顔色が良くなり頬が赤く染まった。少女は口をパクパクと動かし少年に訴えかけた。
「ほ、本当に?」
「あぁ本当だ、俺が立派な魔女になったら一番最初に幸せの魔法をかけてやる、約束だ」
「約束?」
少女はやはり疑問形で返した。そして少年はその疑問に答えるかのように少女の頭に手をおいた。
「約束だ、俺がお前を幸せにしてやる、必ずな」
必ずと口にした少年は少女の目をじっと見ていた。そんな時間がしばらく続いた頃少年は少女から離れた。
その時、少女からはわずかな声が漏れた。それはまるで「もう少しこのままでいて欲しい」とでも言いたげな様子だった。
しかし、少女は何も言わなかった。少女は口をぎゅっとつぐんで、まるで自らの気持ちを押さえつけるように胸の前で両手を結んだ。
すると、せっかく良くなった少女の血色も再び白く、青くなった。しかし、少女は小さく微笑みながらつぶやいた。
「・・・・・・約束」
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