01-01:宝物その1

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 01-01:宝物その1

 僕には宝物がある。 『ビストロ・ノクターン』  僕がホールスタッフとして働く、素敵な洋食屋の名前だ。しかもただの洋食屋じゃない。なんと創業約百年にもなる由緒ある洋食屋。  素敵な居場所、素敵な店長と従業員のみんな。  それに……僕が今、ここに至るまでに積み上げた短くてたくさんの、かけがえのない思い出の数々。 「おはようございます、アインさん」 「おはよう、きょっぴー」  自分の部屋を出て階段を下りた僕は、いつものように厨房に顔を出す。店長のアインさんは、僕よりも早く起きて既に朝の仕込みを始めているというのに、眠そうな表情ひとつ見せないから驚くばかり。  しかも、まだ夜も明けぬ頃だというのに……輝くような微笑みを浮かべているんだからずるい。  僕は聖弘(きよひろ)。でもみんなは僕のことを『きょっぴー』って呼んでいるし、僕自身も名前で呼ばれるよりはきょっぴーの方が好きだ。  だって、僕が初めてここにやって来たときに皆につけてもらった、呼び名だから――。 「どうしたんだい? 私の顔に何かついているかな?」 「うわっ!」
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