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「やっぱり見ちゃったかぁ」
見てませんって!! やっぱり拾おうなんて考えるんじゃなかった!
「しょうがないなぁ、これ仕事の契約金で急いで持ってかないといけないからさ。はいお礼」
ポンっと、俺の手に持たせたのはおそらく百人くらいが束になった『福沢諭吉』さん。
「……お礼?」
「そ、拾ってくれたお礼。キャッシュレスな世の中だけど、現金しか信用しないってお客もいてね。そういう客は時間にもうるさくてさ、バイクで急いでたらバッグの紐切れちゃって」
ほら、と彼が見せてくれたのはショルダー部分の壊れた金具。
「落とし物には何割かお礼がいるって聞くから。あ、それだと足りないかな?」
俺は芸もなくまたぶんぶん首を振ると、男はまたにこりと笑う。
「良かった、それじゃ」
そう言うと、男はさわやかに手を振って居なくなった。
契約? そしてこれは拾い物のお礼?
『福沢諭吉』さんが百人ほど並んで俺を見てる。
そうか、拾ったらお礼がもらえる、これが普通なんだよ。今までの俺は間違ってなかったんだ!
なんていい日なんだ! 晩飯は『思いっきりステーキ』にでもしようか!?
これだけあるんだからヒレ300グラムだって問題なしだ!
「お礼万歳だ! わはは!」
と高笑いする俺のかなり前方で、パトカーのサイレンが止まった。
え? サイレン?
おわり。
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