中学?高校?

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中学?高校?

国公立の合格発表の時期になると、次年度の担任団が少しずつ決まってくる。 教員生活はまだ2年目、中学の副担やって、教員の仕事に終わりはないって痛感してる。 元気そうに見えても、思春期男子のハートは繊細。 生徒どうしの会話がたまに辛辣なのが気になるけど、子どもたちは案外あっけらかんとしてて… それが、本心なのか仮面なのか、あたしにはまだ見えないことも多い。 気になることは、担任や養護教諭に話して相談するけど、答えは出ず。 日々変わるのが子どもたちだから。 それを、成長、ともいうけど…大人がほんのわずか、小さいこと、と判断しても、子どもの心に傷がつくことがあるかもしれない、そう思うんだけど 気にしすぎたら、かえって見えなくなるし、自分が疲れちゃうよ、って言われる。 「坂口先生、今ちょっと時間ありますか」 「はい」 主任に呼ばれた。 次年度のことかな。 職員室から少し離れた応接室で、緊張の面持ちのあたし。 「坂口先生」 「はい」 ローテーブルに置かれた書類に、何が書かれているのか気になって 先生から急に呼ばれた生徒みたいに、変な汗かいてる。 「副担持って、どうですか」 「え、っと…勉強になります」 咄嗟に出た返事がこれって…教師になって、2年過ぎようとしてるのに。 「そんな緊張しないで、感想教えてくれればいいですから」 「あっ、はい…」 何を話せばいいのかわからなくて、頭の中がぐるぐるしてる。 「中高一貫だからかもしれないですけど、一生懸命に取り組む子が多くて、頑張らなきゃって思います」 「教科指導のことかな」 「はい、それと、優しくてよく気がつく子も多いです」 登村くんの笑顔が浮かぶ。 「そうだね、友だち思いの生徒は多い、よく育ってくれてると思うよ、おうちの方と先生方のおかげだね」 「はい、そう思います」 「坂口先生は、生徒のことをよく見て指導されてる、細やかな目で見てくださるから、安心してますよ」 「あっ、ありがとうございます」 褒められるなんて思ってなかったから、また変な汗出てきちゃう。 「そんなに緊張しなくても」 「…はい」 主任は柔らかな笑顔で 「次年度ですが、中学で担任と、高校で副担と、どちら希望されますか?」 「…え」 高1の授業は持ってるけど、高校の話が出るとは思ってなくて、驚いた。 「今の子たちと一緒に上がるのもいいと思いますよ、知らない生徒たちより、やりやすいでしょうし」 「なるほど、そうですよね、考えてみます」 「中学としては坂口先生にいて欲しいですが…彼らの成長を見るのは、とても勉強になると思います、次は3年目ですよね」 「はい」 「うん、それなら早いうちにいろいろ経験してください、では高校も希望あり、ということでよろしいですか」 「はい、よろしくお願いします」 主任との話が済むと、また合格連絡があったと、名前の貼り出しに取りかかる。 「あ、またやってっし」 貼りながら下を見ると、登村くんがいて 「気ぃつけねーと、見えるって」 「そんなに?」 「まー、こんくらい近づけば…見えるかもな」 って、すぐ近くにいる。 「ちょっと!」 スカートを押さえたら 「せんせ、ここオトコばっかって、忘れてないよね?」 片眉をピクっと上げて、ニヤッとする。 その仕草にドキッとするあたしって…この子は高校生だし、生徒なのに、と冷や汗が出ちゃう。 「気ぃつけてよ、美桜せんせ」 言いながら、目の前のグランドに飛び出していった。 サッカーコートはこの奥だけど、2階からなら見えるのかな、登村くんのプレイ。 って、あたし…なんでさっきからこの子のこと、気にしてるの? あたしは教師、彼は生徒! そう言い聞かせて、サッカーコートをちらちらと見ながら、職員室に戻った。
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