えっ、ケガ?

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えっ、ケガ?

デスク周りを片づけて、もう今日は電話来ないよね、って電話じーっと見つめて 「よし、帰ろ、お先に失礼します」 「おつかれさま〜」 職員室を出て、昇降口から帰ろうとしたら グランドの奥から誰か、肩を抱えられてこっちに向かってるのが見えた。 「…どうしたのー?!」 口に片手当てて大きな声で呼びかけてみる。 「せんせー、来てー!」 履き替えたばかりの靴を戻して、グランドに駆け寄ったら 「保健室って、開いてます?」 肩を貸してる子に聞かれた。 「先生は帰っちゃったけど、手当ならできるよ、開けてくるね、ゆっくりね」 「わりーっす」 慌てて職員室に戻って、近くの先生に生徒が怪我したことを伝えて保健室を開けて、生徒が来るのを待つ。 怪我した子ってもしかして、と思ったらやっぱり 「やっちまったー美桜せんせ、痛てぇよー」 登村くん。 「ちょっと見せ…わ、これは痛いね、捻った?」 怪我の箇所を確認して、氷を渡す。 「っつー、ぎゃー冷てー」 「痛いよね、待ってね」 言いながら、壁に貼ってある病院一覧に急いで目を通す。 あ、この外科ならギリ間に合うかもしんない と思ったとき、顧問の杉山先生が飛び込んできて 「あー、美桜先生助かりました、ありがとうございます」 「この外科なら間に合いそうですけど、どうします?」 「生徒たちまだいるから…美桜先生、連れてってくれたら助かるんだけど」 杉山先生は、高校の先輩で あたしがサッカー部のマネージャーだったことを知ってる人。 「タクシーでいいかな」 「サンキュ、助かる、頼んだ」 杉山先生がスマホを取り出して、タクシーを呼んでる。 「後で連絡するから、登村、気をつけてな」 「うっす」 程なくタクシーが来て、あたしは怪我人の登村くんを病院へ連れて行くことに。 「美桜せんせ、帰るとこだったんでしょ」 しかめっつらの登村くん。 さっきよりも痛くなってきたんだろうな… 「そうだけど、いいのよ、気にしなくて」 「うっ、す…」 病院について診てもらったら、やっぱり捻挫。 結構腫れてて、松葉杖を借りることになった。 杉山先生に連絡を入れたら、車出すから待ってて、と言われてそのまま待合室にいる。 「登村くん、おうち遠い?」 「5駅、そっから15分くらい歩く」 「そっか…その足で登下校、辛いね」 「っすね、どーすっかなー」 「おうちの人に、送り迎え、してもらえそう?」 「いま、いないんっすよ」 「え?誰も?」 「海外行ってて、あ、あの車じゃね?」 話してたら杉山先生が到着して、あたしも乗せてってもらうことになって 「登村、ひとりなんだって?メシとかどーする」 「なんとかなるっしょ、コンビニあるし」 「それより、お風呂とか不便よね」 「だよなぁ、登村、彼女呼べば?」 杉山先生の発言に、ドキッとする。 そうよね、こんなにカッコよくて感じがいいんだもん、彼女いるよね、なんて、どうしてあたしが気にするのよ… 「それ、教師としてどーなの」 登村くん、笑ってる。 「ね、おうちに誰もいないんじゃ、ほんとに大変だよね…」 言いかけると 「あ、そーいや美桜、登村んちと近いよ確か」 「え、そうなの?」 登村くんの家に向かっているはずなのに、見覚えのある景色だと思ってたら、うちと近いから? 「先生、なんでいきなり名前呼びなんすか、美桜せんせーの家まで知ってるってあやしー」 「ちげーって、後輩なんだよ、高校の」 「え、まじで」 「で、マネージャーだったの、美桜は」 「は?…まさか、杉山先生追っかけてウチの学校来たとか…?」 「え、そんなんじゃないわよ」 「なんだー、違うのか」 あたしたちの会話、漫才みたい、って笑いそうになってたら 「え、美桜せんせって、こういうのタイプ…?」 「なんだよ、失礼だな登村」 「ぷーっ」 思わず吹き出しちゃった。 「あ、もうそこ俺んちなんで、ありがとうございました」 登村くんが言うと、杉山先生は車を停めて、車から降りるのを手伝って、あたしは荷物を運ぶ。 「無理すんなよ、なんかあったら連絡して」 「先生、ありがとうございました」 「美桜、さんきゅ、ほんと助かったわ」 「先輩も、お疲れさま、気をつけてね」 「おう、じゃ、また学校で」 ふたりで車を見送った。 びっくりなことに、あたしの家とほんとに近い。 通り一本違うだけ。 今まで会ったことがないのが不思議なくらいの近さ。 「ね、登村くん」 「はい?」 「あたし、家帰ったら買い物してくるから、必要なもの教えてくれる?」 「は?」 「教師としてじゃなく、近所の大人として心配だし、不便でしょ」 「まぁ…でもいーんですか、こういうのバレたら…」 「悪いことじゃないもん、大丈夫よ」 あ、でも…彼女呼ぶのかな、って思ったら、少しチクって胸が痛い。 「じゃ、頼んでいーっすか」 「うん、もちろん」 ササっと連絡先を交換して、家に向かう。 悪いことじゃない、と言いながらも、いいのかな、っていう気持ちはある。 困ってる子を助けるだけ、だってほっとけないし、って思うのは、言い訳? 家に着いたら、買い物リストが登村くんから届いてた。
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