登村くんのおうちで

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登村くんのおうちで

登村くんのメモには、冷食とかレトルトばっかり書いてある。 仕方ないか、怪我してるんだもんね…とは思うけど、こんなのばっかだと、育ち盛りなのによくない。 卵やお豆腐、野菜も買い足して、登村くんの家に向かう。 インターホンを押すと、開いてるよ、って登村くんの声が聞こえて、そっとドアを開ける。 「おじゃまします」 今ごろになって、着替えてから来ればよかったかなと思いながら、買い物袋を持って上がると 「こっちー」 向こうから声が聞こえた。 「…キッチン、借りてもいい?」 「へ?ま、いーけど」 松葉杖を使って、あたしのそばに来る。 「え、なんでこんなにあんの?俺頼んでないよ」 「うん、そうなんだけど、冷食とレトルトだけじゃお腹空くでしょ、あんまり自信はないけど、なにか作ろうと思って」 「まじで、作ってくれんの?ラッキー」 「痛いでしょ、座ってて」 「うぃーっす」 制服から着替えるのも大変だったろうな、と、部屋着でソファに座ってる登村くんを見て思う。 「アレルギー、ない?」 「ん、ないと思う、てか、何作ってくれんの」 んしょ、と立ち上がろうとするのを 「ね、お願いだから座ってて、欲しいのあったら言って、持ってくから」 トマトを洗いながら慌てて言う。 「ふ、なんか彼女みてぇ」 って聞こえて、不覚にもドキッとした。 部屋着の登村くん、ちょっと大人っぽく見える。 登村くんは教え子、ではないけど生徒だよ、ケガして大変だからご近所のよしみでお手伝いに来てるだけ、それも頼まれてもないのに勝手に、と思い直す。 なのにドキッとしちゃうなんてあたし、どうかしてる。 「せんせーって一人暮らし?」 「ううん、したことないの、ずっと家」 「え、じゃー帰ったらメシあんのにわざわざ来てくれたの?」 「んー、そうね」 「あのさ」 手元を見ていて気づかなかった。 「誰にでも、こういうこと、すんの?」 あまりにも声が近くてびっくり! 隣にいるんだもん。 「ねー、座っててって、言ったでしょ」 「わかったから答えて、どーなの」 そんなに近くにいたら、あたしのドキドキが聞こえちゃうんじゃないかって、さらにドキドキしちゃう。 「教えてくれたら大人しく座って待ってっからさ」 「…誰にでもなわけ、ないじゃない」 「ふーん、じゃ、俺だけ特別?」 近いから、とか、心配だから、って答えるよりも、ここは素直にうん、って言った方が座ってくれそう、と思って 「そうよ、特別、だからほんとに座ってて、悪化して試合出られなくなったら困るでしょ、キャプテンなんだし」 「なんだよそれ、せんせーくせーの」 「先生なんだからしょうがないでしょ」 「わかったよ」 松葉杖使いながらソファにドカッと座る登村くん。 「彼女っつーより、ねーちゃんみたいだな、せんせ」 わざと聞こえるように言ったでしょ、今、と思ったけど、黙って食事のしたくをする。 「せんせー、彼氏いんの」 「そんなこと聞いてどうすんの」 なんだかさっきから、姉弟ゲンカみたい。 「美桜せんせ、可愛いからさ、みんな気にしてんの、な、いるの、いねーの」 こないだ別れたばっかり、なんて、ほんとのことは言いたくない。
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