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登村くんの笑顔
登村くんのケガは、ひと月弱でほぼ大丈夫になって、その間、買い物や食事のしたくで登村くんの家に行っていたあたしは、ちょっと寂しいな、って感じてた。
とはいえ、学年末。
殺人的な忙しさ…というのは少し大げさだけど、成績つけ、必要な生徒には面談したりと、通常業務に加えてやることが増えるだけでなく
生徒たちは、春休みが近い、学年が上がるというのでそわそわするし
職員会議も増えるし、落ち着かない。
多いときは週に3回、4回と登村くんのとこに行っていたのが信じられないくらいに、バタバタしてる。
「あ、せんせー」
離れたとこから呼ばれてもわかる、この声は、登村くん。
「今から部活?」
ちゃんと登村くんの顔見るの、久しぶり、っていうくらいに毎日慌ただしいんだなと、改めて思う。
「そ、つってもまだ蹴れねーけど」
「そっかぁ、無理しないでね」
「ん…つーかさ…」
つつ、と近づいてきて
「また連絡とかって、してい?」
ほかの誰にも聞こえないくらいの小さな声。
「だいじょ、ぶ」
ドキッとして、やっと返事できた。
「さんきゅ」
囁くように答えた登村くんは、サッと行っちゃって、あたしひとりがその場に残されたように感じてたら
ふ、と振り向いて爽やかな笑顔をくれて、向こうへ。
一瞬のできごとに、あたしの心臓はドキドキうるさい。
あたし、教師だよ。登村くんは、生徒、高校生…!
そんなの、頭ではよーくわかってる。わかってるけど…
必死で自分にそう言い聞かせていたら
「…坂口先生?会議始まるよ」
「あっ、はい」
同僚に声を掛けられて、現実に引き戻された。
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