母、息子の推しを始める。

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母、息子の推しを始める。

きらびやかなキャストたちがそれぞれの挨拶を終え、手を繋ぎ始める。成功した安心感からか涙ぐんでいるキャストもいる中で、このミュージカルの座長である若い男の子が声を張り上げながら叫んだ。 「本日はまことに、ありがとうございました!」 一斉に頭を下げるキャストたちに向けられる、惜しみない拍手。 観客はスタンディングオーベーションでキャストを拍手の海で包む。私も周りの人と同じように席から立ち上がって拍手をしながら、ある1人の男の子を見つめていた。 「ありがとうございました!」と言い、手を振りながらキャストたちが部隊袖にはけていく。私は最後までその男の子を目で追っていく。 舞台からキャストがいなくなると、ワイン色の高級感溢れる幕が下ろされて、劇場内に終演を告げるアナウンスが流れた。 私は今、東京でとあるミュージカル作品の大千穐楽を見終えたのだ。 パラパラと拍手が止み始め、客席にいた若い女の子たちが笑顔を浮かべ興奮しながら入り口へと向かっていく。 「それにしてもさぁ、今回のトモキ君、すっごいハマり役だったよね!」 「しかもめちゃくちゃかっこよかった!もう眼福!明日から仕事頑張れるわぁ!」 「トモキ君のオフィシャルファンサイト開設されたやん?私今日入会する!」 入り口に向かう途中、前の女の子たちがそう話していたのを聞いて嬉しい気持ちになった。 (あー・・・この子たち、智輝ファンの子たちかぁ・・・) そう思いながら歩き出す。劇場を出て、入り口にあったポスターを携帯のカメラで撮った。 1枚目は全体を。2枚目は私の推しを。私の推しは、先程ファンの子たちが話していた男の子だ。 彼の名前は「百歳智輝(ももとせともき)」。 百歳家の長男にして、関西育ちの21歳イケメン男子。 「いやぁ〜。しかしだね、トモちゃんが将来こんな風になるとは思わなかったよねぇ。」 私は携帯のカメラを下ろしながらそう呟く。 実はワタクシ、百歳智輝の母をやってます、百歳奏(ももとせかなで)と申します。先日51歳となりました。 この度、21年間大事に育ててきた実の息子が初めて大きな舞台に立つということで、はるばる関西から東京まで見に来ました。 私はライン画面を開き、主人(智輝の父)とのトーク画面を開いた。 『トモちゃんが出てるミュージカル、今見てきたよ!ほら!トモちゃんがポスターに載ってるよ!』 文章と一緒に送られる、さっき撮った写真。 その写真を見ながら私は目を細めて思った。 (息子の推しを始めるか。) そう。私は今日から本格的に、息子の推しを始めることにしました!
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