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狼少女との出会い
「長矢君って君だよね?
まだ治ってないんだぁ。
カワイソ~」
校門前で待ち伏せていた男の顔には見覚えがなかった。
だが、そいつの着ている制服には嫌というほど既視感があった。
見ていて吐き気がしてくるような下卑た笑みを口端に、目の表情にまで浮かべて、三角巾に吊るされた俺の腕を指さす。
「おれ、持ってんだよね~。
あの時の君のしゃ、し、ん!」
灰色の、はがきみたいなサイズの封筒をひらひらと振って見せつける。
「一回でいいからおれにもやらせてよ。
終わったらその場で返してあげるからさぁ」
……別に、写真なんかばらまかれたところで、もうどうでもいい。
それ以上に、単純に。
ここで抵抗すること自体がもはや面倒に思えただけ。
一度失ってしまったら、二度目だろうがそれ以降だろうが、守り通そうとする意義が見えなかった。
いかにもケチくせぇ性根が滲み出た顔で、わざわざ金を払ってホテルなんか入らなさそうな野郎だと思ってた。
男はどこへ行くとも目的を決めていなさそうだったけど、適当に道を歩いていて、急に右手側の森へ折れていって。
俺は言われるままそれについていって、少しだけ開けた空間に出たところで背中を突かれて地面に倒された。
あの日折られて完治していない左腕を庇って、右肘で地面に着く。
そのままじゃあ腕に悪いよねぇ、おれって優しい~なんて戯言を吐きながら、俺の体をひっくり返す。
されるがまま、揺さぶられながら、右側に投げ出した自分の指先だけを見ていた。
俺はヴァンパイアに犯された、人間の母親から生まれた、混血の生き物。体は人間と同じでも、そこに流れる血はダムピールという種に分類される。魔物ではないけれど、人間と呼んでもらえるのか、曖昧な存在。
何の落ち度もないのに、ただ用事でやむを得ず夜道をひとりで歩いてたってだけでバケモノに襲われてその子供が自分の腹の中で大きくなっていく。そんな経験をして出てきた俺を普通の子供として愛せるわけもなく。
その現実にふてくされて、中学生になった俺は素行の良くない仲間と行動するようになった。みんな、多かれ少なかれ俺と似たような想いを家庭で抱えてる奴らだったから、傷の舐めあいみたいな付き合いだった。
それでも、普通に暮らす人達からしたら確かな迷惑行為を繰り返してきたわけだし、因果応報……同じような素行の、他校のグループに因縁つけられて、どっかの廃倉庫に連れていかれた。今と同じように土の上で、鉄骨の八割方に錆の浮いた茶色い壁に囲まれた中で、……。
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