父を探して

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 たとえ、目の前で魔物が人間を害しているのを目撃したとしても、有害指定がなされる前の個体だったら絶対に手出ししてはいけない……。  不条理な話だけど、「不可侵条約」によって魔物から害されない人間社会を維持し続けるためには致し方ないんだろう。  人が住むマンションの作りをしているのだから、その討伐事務所は土足で上がり込むような間取りではなく、玄関に入るとスリッパが並んでいた。  ヴァニッシュが最初に、次にティアー、俺とスリッパに履き替える。  俺はまだしも、魔物が律儀にそんなことをしていると思うと違和感が凄まじい。  事務所内には受付担当らしい中年の女性が1人いて、ヴァニッシュは彼女に何らかの免許証らしいカードを渡す。  彼女はノートパソコンを操作して何か照会している。  女性から少し離れた奥にはデスクトップパソコンで事務仕事をしているらしい中年男性と、窓際に置かれたソファーで横になって寛ぎながら煙草をふかしている若い男がいた。  室内で、そんな体勢で煙草を吸うって危なくないんだろうか。  顔に灰が降ってきそうなんだけど。  煙草の男はちらとヴァニッシュへ目をやると、枕代わりに組んでいた腕を解いて右腕をすっと挙げて、すぐに戻す。  ヴァニッシュはほんのかすか、頭を下げる。  無言だけど、確かに、挨拶の交わし合いであると傍から見ていてもわかる。  彼らがいるのは事務所スペースで、俺達がいるのは来客スペース。  こちら側にもデスクトップパソコンが二台、向い合せの配置で置かれている。  片方は部屋の角を背に、もう反対はパーティションが置かれていて、背後からの覗き見を防ぐ最低限の配慮がなされている……らしい。  覗かれたら支障のある調べものをする用途なんだ。  実際、これから俺の望みでヴァニッシュが調べてくれる情報もまさに、人に知られるのはあんまり良くない内容だった。 「って、ヴァニッシュパソコン使えるのか?」  当たり前のように自ら椅子を引いてパソコンに向き合い、マウスを動かしキーボードを叩きだす。  どうでもいいことだけど、あんまりにも意外だったのでつい口出ししてしまった。  森の奥で暮らしてる狼がその正体なんだぞ? 「ハンターの手伝いをさせられていた頃に、ヴァンパイアの居所を調べるのに使わされた程度だ……って、よ」  本人ではなく、ティアーが代わって答えた。  それも、「余計なことを言うな」と目で俺を責めまくる。  手伝いを「させられていた」、って強調するから、本人がしたくて使ってたわけじゃないってことなんだろう。  パソコンはもちろん、「狩りをするためにヴァンパイアについて調べる」って行為そのものが。
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