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「きちんと申告するような人間は、大抵は生んでないんだよ。
ヴァンパイア被害として申告してそれが認められればそのための……
産まないための処置費用? が支給される。
『緑色』の負傷者の場合も同じ。
完治するまでの通院費用? が全額負担だそうだ」
ヴァニッシュから教わったんだろう知識をそのまま伝えているのか、ティアーの言葉は疑問符が滲んでいる。
そうするために必要な「費用」っていうのがそもそも理解出来ているのかが怪しい。
申告した上で出産もしたとなると、その子供がダムピールであると人間社会に認知されてしまうから……
なおかつ、ダムピールなんていう
「いつかはヴァンパイアになるかもしれない爆弾」
みたいなものを世の中に出したくないからこそ、税金で費用負担してでも……か。
ますます吐きたくなってきた。
大量のきょうだいがいなさそうだっていうのは安心だけどさ……。
「……さすがに、15年前と同じ場所にはいないようだが。
極端な大移動もしていないな」
名簿はとりあえず置いておいて地図に戻る。
同じ場所に留まっていないだけで、割とこの周辺地域をぐるぐると、周期的に移動して暮らしてるみたいだ。
アイコンの分布からわかる。
「ヴァンパイアってこうやって、自分の居所が追跡記録されてるって知ってんのかな……」
自由気ままに生きてるつもりで、実は自分の行動が分析されまくってるなんて。
想像したらぞっとするな。
「さあね~。
あたし達もエメラードにならヴァンパイアの知り合いもいるけど、人間の島にはいないから。
こっちでどんな風に暮らしてて、何を思って生きてるかなんてわっかんない」
今回の用件に一番関心の薄いのがこいつだから、ティアーはすでに状況に飽きてきていて、どうでも良さそうに足をぶらぶら振ってパソコンの周りを行ったり来たりする。
「……俺は、日中は仕事もない。
どうせ空いた時間だから、最後に目撃された町を中心に探ろうと思う。
君の、その腕が治るまで」
「ありがたいけど……
どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「……俺はかつて、主人の命令でハンターとして、幾人もヴァンパイアを手にかけた。
命乞いする者であっても。
死にたくない者を殺してきたのだから、死にたくても自ら出来ない君がそう望むなら、そのために手を下すのは俺であるべきだ」
「違う! そんなの、ヴァニッシュのせいじゃないっ」
咄嗟に、ティアーが口を挟む。
「ワー・ウルフは死んだ狼が、人間によって魔術を施されて生き返る。
自分を作り上げた人間の命令にはどんなものでも逆らえないんだ。
ヴァニッシュのやったのは全て、その人間の命令じゃないかっ」
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