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ティアーはちょいちょい俺の右肩を指でつついて、このみから少し距離を空けるよう促して背を向けてから、こっそり耳打ちする。
「人間の学校に通うためには人間の名前が必要だろう?
エメラードの仲間と相談して、考えた名前なんだ!」
鼻息も荒くドヤ顔でアピールしてくる。
なんだかんだで言いそびれてたけど、この様子じゃ俺にももっと早く披露して、自慢したくてたまらなかったんだろうなぁ。
それは結構だけど、
「せっかく考えた名前の割にセンスがなぁ。
『涙』って、人間の名前に使うような言葉じゃないぞ?」
「『ティアー』を人間の言葉に当てはめると、『涙』になるそうでな。
ティアーはティアーという名前が大好きだから、それ以外の名前なんてぜーったいに嫌なんだ!」
「そういう事情なら仕方ない……かなぁ」
もし、ティアーが無事に人間の島の高校生になれたとしたら、めちゃめちゃ悪目立ちしそうな名前だよな。
今と違って気に喰わない絡まれ方をしたらとりあえず殴って黙らせる、ってわけにはいかないだろうし。
学ばなきゃいけないのは「女らしい話し方」だけじゃなく、そういう魔物らしさを排除した人間としての振る舞いもなんだろうな。
このみからしたら、見知らぬ女友達を連れてきて協力まで頼んでおいて、目の前でこそこそ話をしているわけだから気分を害したんじゃないだろうか。
そう思って後ろを振り返ったけど、にこにこと笑ってこっちを見ている。
独特で変な奴なんだけど、心は広いというか、器はでかい感じはするな。
「なみだちゃん、だね!
それで、ごくごくふっつーにお喋りしてあげればいいんだよね?」
「ああ。それで、聞いてて気になる言い回しがあったら注意して矯正してもらえると助かる」
「りょーかぁーい。
せっかくだからお近づきのしるしに、あたしからもお願いしたいことがあるんだぁ」
「お願い? こいつにか?」
「そぉ、ゆたか兄ちゃんじゃなく、なみだちゃんにね」
「何だ?」
「ひとくちでいいから、血を口に入れたいの。
あたしにはそれで色々わかっちゃうから、お喋りするなら参考になるでしょお?」
……お子様としてはあまりにも理解不能な「お願い」に、俺もティアーも脳が一瞬受け付けず、時が止まる。
お子様じゃないとしたって意味不明だけど。
「豊の身内だっていうし、この子もダムピールかヴァンパイアか?」
「そんなわけないと思うけど……
もしヴァンパイアなら、俺にはそうってわかるはずだろ?」
もし、このみがダムピールだとしたら俺にもティアーにもそれと特定は出来ないだろうけど。
どっちにしろ、ダムピールだったら血を要求するのはおかしい。
そんな性質はないはずだから。
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