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人間じゃない生き物を生まされた俺の母親……伯父さんの妹。
落ち着いて育児が出来るような心境じゃなかった彼女の代わりに、伯父さんが赤ん坊の頃の俺の世話の大半を担ってくれたらしい。
おまけに、母の為に俺がどういうものなのか調べて。全て知ったその上で俺に対しても温かく接してくれた。
内縁関係の女性と一緒に暮らすことになってからは以前ほど頼りきりってわけにはいかなくなったけど、俺が生まれてから今までで、俺を優しい目で見守ってくれた数限られた人の1人であることは間違いなかった。
「彼女は?」
「ティアーちゃんていうんだよぉ」
「ティ……え?」
人間としての名前を教えたというのに、このみは迷わずそっちの名前を告げる。
当然、伯父さんも困惑する。
「豊のお友達かい?」
「そう……だけど……」
「ふぅーん……まぁいいかぁ。
初めまして。ティアーさん」
「はっ、じめ、ましてっ!」
ティアーにとっても予想外の反応だったのだろう、慌てたように肩を跳ねさせて挨拶を返す。
ぺこりと頭も下げて。
伯父さんはこういう人だ。
細かいことはあんまり気にしない。
気にしなさすぎて俺でもどうなんだと思うことも多々ある……。
「もうこんな時間だし、明日は休みだろう。
2人共、良かったら夕飯ご一緒にどうだい?」
「今日はママも夜勤で帰ってこないんだぁ。
お泊まりもしていってよぉ」
「さすがに泊まりはな……
何の準備もしてないから」
夕食だけは厚意に甘えていただくことにした。
伯父さんは調理師で飲食店で働いているから、出てくるものは普通に……
いや、普通以上に美味しい。
食べさせてくれるというなら味わいたいものだし。何より……。
「あぁ、恵かい?
今夜ね、豊と夕食を一緒にしたくてねぇ。
お友達も一緒で……ありがとう。
それじゃあ」
伯父さんが俺の家に電話して、伝えている。
こんな風、母親は俺が帰るのなんか心待ちにしていないから、帰らないならそれにこしたことないんだと思う。
「しかし、夜遅くに中学生2人で夜道を帰すっていうのもなんだかなぁ。
本当にいいのかい?
泊まるか送るかしないで」
「大丈夫。
あたし、腕には自信があり、ますので」
「腕? 腕っぷし?」
「夜道でも、豊があぶなくないように、ちゃあんと守、れ、ます、ので」
「そうですか……
それなら、豊をよろしくお願いします」
普通に考えたら、女の子の方が守るなんて言い分、不自然に思うべきなんだろうけど。
伯父さんはにっこり笑って、ティアーに頭を下げた。
「へへ~……まかせて!」
会ったばかりの人間の男性に信頼を向けられたのがそんなに嬉しかったのか、ティアーはただただ誇らしげに笑みを返した。
ともすればそれは、今日までに俺が見た彼女の表情の中では最も、「人間の少女らしい」ように思えた。
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