狼少女との出会い

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 俺は男だから絶対妊娠なんかしないのに、それでも、体の奥に生き物になるもとが注がれるのは恐ろしかった。  女の体で、注がれたモノが魔物になってしまうかもって、そんな経験をさせられるなんて最悪だ……  俺の場合自分が招いたことだから形だけなんだが、同じ目に遭って思い知った。  その結果として、この世に出てきた自分自身のおぞましさも……。  それとは別問題だから、現実に今俺を害してくる連中をぼやけた視界で見上げながら…… このままこの場で死ねたなら、俺はヴァンパイアになって、こいつら全員殺してやるのに。  いつの間にかそんなことを考えていた。  ダムピールは、死んだらヴァンパイアの体に変わる。  ただの人間相手なら、数人まとめて一息に殺せるはず、だから……。  意識が薄れてきて、いよいよその時が来たのかなと思った矢先に警察が踏み込んできて連中を連れてった。  俺は救急隊によって運ばれて、病院で目覚めた時に、廃倉庫の中で円状に囲まれて蹴りつけられてた仲間が助からなかったことを聞かされた。  もう……何もかも、どうでもいい。  生きていたいとも思えないけど、ダムピールは自分ひとりじゃ死ねない。  その方法を知っている誰かに、ヴァンパイアを殺す時と同じ儀式をしてもらわないと…… その方法は俺だって知らない。  俺の母親のために万が一を想定して(みのる)伯父さんが調べたらしいけど、俺には教えてくれなかった。  意識は体とは別のところにあるみたいでなんにも感じていなかったけど、ほぐし終わって男が自身を俺に押しつけて中に入り込んでくると、その圧迫感でさすがに息が詰まった。  眺めていた右手の指先が滲んでいく。 「……もう、いやだ…… だれか……おれを、たすけてよ……」  他に該当する誰もいないんだけど、自分が言ってるような気がしない。他人事みたいな、かすれた懇願。 「だれか……おれを、殺して……」  がさがさ、葉っぱの揺れる音が聞こえた。 「……なんだ?  ……助けろっていうから来たのに。 人間はオス同士で交尾するのか?」  訝しむような、澄んだ鈴のような声が耳に届いた。頭の方から。  全く自分の自由にならない気がした体、どうにか首だけ少しずつ動かして、見上げた。  細い、裸足の女の子の足が、俺の頭のすぐ上に立っている。  白い、何の特徴もない、膝下丈の地味なワンピース。  森の中には風もなく、裾がそよいでいたりもしない。  真っ直ぐ俺を見下ろしている目には、困惑が浮かんでいる。  黒髪のショートボブに、大きな黒い瞳。  言っちゃなんだがこれといって特徴のない、ありふれた女の子だと思う。  森の中には、ヴァンパイアだったりそれ以外の魔物だったりが住みついていると伝えられているこの世界。  普通の人間はおいそれと森の中に立ち入らない。  全く無防備な女子がこんな風にここにいるのは、全く持って異質だと思う。 「……へへ、なんだよぉ。 お姉ちゃんこそ、こんなとこでひとりで何してんだよぉ」  舌なめずりしながら、男が俺から出ていって、立ち上がろうとした。 「おい、そこの、」  早く逃げろ、と言おうとしたけど、言葉が止まった。  言い終えるよりも早く、女の白い足が、中腰になっていた男の顔面へ飛んで行って、めり込んだから。
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