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懺悔の夏
ヴァニッシュは夕方からの勤務を済ませてから合流するとのことで、初日はティアーと俺だけでそこへ向かう。
森の奥といっても所詮は市街地に隣接した平地だから、ティアーに道案内されての「出張所」とやらまでの道中はそれほど過酷でもなかった。
しかし使用頻度の低い小屋でティアー達みたいな魔物が通り抜ける獣道らしきものは出来上がっていないので、何の情報もない人間だけで狙ってそこへ辿り着くのはほぼ無理だろう。
「人間の島の森は、夏場はうるさすぎて苦手だぁ~」
森っていうと静かなイメージがあったけど、確かに、降り注ぐような蝉の鳴き声が耳障りだ。
街の中にいたって夏は多少気になるっていうのに、その発生源に直接入るんだからこうもなる。
人間の俺の耳だってそうなんだから、それより遥かに聴力に優れた狼の耳には堪らないんだろう、ティアーは心底嫌そうな顔で舌を出している。
「魔物の島には蝉っていないのか?」
「いないよ。エメラードにもアクアマリンにも……って、
アクアマリンにいないのは当たり前か。
草一本生えない土で出来てて、どんな生き物だって自然発生しないもん」
枯れた土地、だとか死んだ地面、なんて、学校の授業でさらっと流し聞きした記憶があるけど。実際にそうなんだな。
小一時間ほど歩いて到着した。
壁と床は太めの、天井は細めの丸太を隙間なく並べて積み上げた小屋だ。
「ここの小屋はライトが作った中でもかなーり古い時期のもので、次に壊れたらもういいやってことで手入れも点検もしてないんだって。
使うんなら地震とか気をつけろよって言ってたけど……
地震ってなんだっけ?」
「エメラードにゃ火山ってないのか……」
ついさっきも同じような問答を繰り返したばっかりだが、火山も人間の島特有のものだったらしく、エメラードにはない。
地震も全くないわけじゃないにしろ、人間の島でたまにあるような大地震なんかはなく揺れが小さくて魔物達はあまり気にしなくて意識にないんだとか。
「大地震……そっか、あれって」
「あれ?」
「なんでもなーい。ひとりごと~」
「その、ライト? とかいう仲間? がどこまで詳しいのか知らないけど。
この辺は火山も近くないし今まで大きな地震はなかったって聞くけどな。
そもそも、大地震の起こりやすい場所に大きな町は作らないようにしてるはずだし」
つっても地震の原因も必ず火山だけってわけじゃなし、いくら予測したって大地震が絶対起こらない場所、なんてないらしいけど。
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