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「前に言ってた……俺がティアー達の事情を何にも知らないくせにって、このことだったのか」
「このこと?」
「ワー・ウルフとしては10年しか生きられないっていうのと。
自分を作った人間の命令には、どんなに嫌でも逆らえないってこと……」
「あー……言ったっけ、そんなこと」
「ごめん。ティアーの言った通りだったな」
「こっちだって、ダムピールには苦労が多いって知っててわざと言ったんだもん。
今思い出すと酷かったかも。
ごめんね」
少しだけ恥じ入るように笑いながら、そう言って。
またメニュー表へ目線を落とす。
俺とヴァニッシュは一番安い、トーストとゆで卵しかついてないメニュー。
ティアーはスクランブルエッグと焼きベーコンとサラダの盛り合わせ。
これは、ティアーに箸で料理を食べる練習をさせる都合でこうなった。
普段は焼いた肉を手づかみで食ってるばっかりだからな。
「そういやさ……ヴァニッシュの、ヴァンパイアハンターの主人? って奴は今どうしてるんだ?」
案の定、悪戦苦闘して皿の上に何度もぽろぽろとスクラングルエッグを落としてイライラしているティアーを横目に見つつ、俺はヴァニッシュへ訊ねた。
「……彼はヴァンパイアだけでなく、人間からも多く恨みを買っていた。
仕事とは何の関わりもないそうした恨みで刺されて、命を失った」
「ふ~ん……」
因果応報みたいだし、良かったな、と言ってやりたかったけど。
どんなに酷い主人だとしても、ヴァニッシュは「ざまあみろ」なんて思いそうにない。
苦々しげに、しかし確かに悼む感情もはっきりと、その横顔から見て取れたから。
「ティアーをワー・ウルフにした主人っていうのはどこにいるんだ?」
「言わない。
今言ってもどうせすぐ忘れるから、意味ないもん」
「忘れないだろ」
「忘れちゃうんだよ……」
一生懸命動かしていた手を止めて、箸を皿の上に置いて。
酷く悲しそうに目を伏せる。
「今は言わないけど……いつか、言うから」
「わかった。それでいいよ」
「うん……」
肩を落として、ここまで気落ちした様子のティアーは今まで見たことがなかったから。
俺も思わず怯んでしまった。
ファミレスを出て、街を歩く。
本来ここへ来た目的、目当てのヴァンパイアが今、この街にいるのか探るために。
途中、昼食をとったが歩きながら食べられるものを商店で買って歩みは止めない。
今日もヴァニッシュが出勤するから、移動の時間も見積もって15時になる前に今日の調査は打ち止めってことになっていた。
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