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「ヴァンパイアのにおい、しなかったなぁ。
ヴァニッシュはどうだった?」
「……俺も。ティアーと同じだ」
「そっかぁ。豊は?」
ダムピールは、ヴァンパイアが近くにいれば察知出来る。
そうらしいんだけど、俺は実際それを体感したことがないから、「もし近くにいたら自分はどう感じるのか」がわからない。
だけど……。
「なんか……気持ち、悪い」
半日ほど、街を歩いて。
最初は何にも感じていなかった。
けれど、いつからか、心臓のあたりに違和感を感じ始めて。
気のせいかなと思うくらいささやかな、胸のざわつき。
それが数時間に渡って続いたせいか、今はちょっと喉奥までせり上がってくるような不快感があった。
食べたものを吐いてしまいそうだとか、そこまで酷くはないんだけど……。
「……俺達は、よほど近くにいなければヴァンパイアのにおいは見つけられない。
ダムピールの方が感知する範囲が広いのかもしれない」
「この街のどこかにいるかもしれない、ってことかなぁ」
「……まだ、探し始めて1日目だから。
森の奥の暮らしにも慣れてないだろうし、豊が体調を崩しただけともわからない」
「ジャックから聞いておけば良かったかなぁ。
ダムピールがヴァンパイアを見つける時って、どんな感じがするのか」
「……俺が今夜、こっちへ戻る前にジャックのところへ寄る。
明日は定休日だから夜まで時間が使える」
「はっきりしないまま動き回るの無駄だし、手間でもそうした方がいいよね」
漠然とした胸のむかつきで俺が返事を出来ないまま、2人は冷静に話を進めていた。
たとえ相手の姿が見えなくても、対立する魔物を探し当てて追う……
そういった行動に慣れていそうだ。
ヴァンパイアハンターの経歴があるヴァニッシュならまだわかるけど、ティアーも?
疑問を抱いたので訊いてみると。
「あたし、元は普通の狼だったんだよ?
獲物を探して狩るのなんか、慣れっこに決まってるじゃない」
「ああ、そっちか。
魔物とやり合うのに慣れてるわけじゃないんだな」
「人間はどう思ってるか知らないけど、魔物同士で戦う場面なんて限られてるよ。
まぁ、これからは違うんだけど」
「これから?」
「それも、また今度ね。
豊の用事が終わるまではそっちに集中するからさ……」
ティアーはそこで、言葉を止めた。
気付いたんだろう。
この一件が片付いたら、俺はどうなるか。
その俺に「これから」を話すことに、意味はあるんだろうか。っていう実情に……。
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