狼少女との出会い

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「あった……やりたいこと」 「そうか? 良かったじゃないか」  意外そうなティアーの声。  何を想像したんだか知らないが、「良かった」とは言い切れないんだけどな。 「俺をダムピールとしてこの世に出した父親を殺したい。 俺自身の血を使って」  俺がこの世に在った意味を求めるなら、それ以外に何があるっていうんだろう。  ダムピールの血は、ヴァンパイアを殺すためだけの劇薬。  この血を使ってあらゆるヴァンパイアを殺してやりたいなんて思うわけじゃない。  人間社会に害しかないヴァンパイアだとしても、俺は彼ら全体を恨んでるんじゃないから。 「それは結構なことだが、もちろん、相手の居所や勝算はおまえ自身が持っているんだろうな?」 「それは……まだだけど」 「まさかとは思うが、ティアー達をあてにしているんじゃないだろうなぁ」  思いつきで言ってしまったことだからそこまで考えてなくて、心底嫌そうに舌を出すティアーに言い訳のしようもない。 「……ならば、俺が協力する。 絶対じゃないがある程度、調べる伝手はある」 「ヴァニッシュ~。 またそうやって、自分に何の得もないことを引き受けて」 「……損も得も関係ない。他の誰でもない、俺こそが引き受けるべきと思うだけだ」  未だ地面にへたり込んだままの俺に、少しだけ腰を落として、銀色の男は手を差し出してくる。  その目は確かにまっすぐ俺を見ているのに、今、ここではない時間を見ているような気がした。  俺を悼むような、自分自身の痛みに耐えるような、眼差しで。 「……そういえば、まだ名乗っていなかった。 俺はヴァニッシュという。彼女はティアー」  確かに名乗られてはいないけど、話の流れでとっくに知ってる。  目を疑うような美形の癖になんだか抜けた奴だな。 「俺は……、豊……」 「へえ。良い名前だな。思ったより」 「あのなぁ」  嫌われてようがどうでもいいけど、いちいち人の神経を逆撫でするようなことしか言えないのかよ。  咄嗟に反発しようとして、しかし続く言葉は「思ったより」まともだった。 「ティアーは人間の言葉をまだあまり知らないが、その言葉の意味は知ってるぞ。 森の中に、果物をつける木が密集してる場所がある。 その年ごとに実りに差があって、味や収穫量に差が出る。 実りの多い年にはみんなこう言うんだ。 『今年は恵み豊かだ』とな」  恵み……豊か……。  俺の母親の名前は、『恵』、なんだよな。  俺のことなんかいらないだろうに、その割に…… 自分と繋がる名前をつけたりする。  それは俺にとっても、ずっと以前から不可思議だった。
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