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父を探して
あの日からもうすぐ一か月になるっていうのに、未だにギプスが外れず煩わしい。
うっとおしいのはそれだけじゃなく。
「やぁやぁ、長矢く~ん。元気ぃ?」
毎日じゃないが、校門前でこうやって絡んでくる他校の馬鹿がまだ、やって来る。
今日は3人か。
もう言いなりになる理由もないからシカトして帰るだけなんだが、いちいち相手するのもうざったいし、何より……。
「おい、そこの外道臭い人間め。
豊はテ……じゃなくて、あたし達。が、先約だ、よ。
さっさと消えろ。
痛い目を見たくなければ、ね!」
別に校門前で待ち合わせって約束じゃないが、耳の良いティアーはもめごとを少し離れた場所から聞きつけて、こうやって姿を現す。
今後に備えて「人間の少女らしい話し方」を練習中とのことで、僅かな台詞だというのにめいっぱい頭を悩ませながら言葉を変換しようとする。
「何? 長矢君の彼女?」
「んなわけない……」
「貧相な体つきだね~」
ティアーは魔物だからか、人間の女と比較したら上背が割とあって、今の俺とほとんど同じくらいだ。
手足は棒のように細くて筋肉で引き締まっているし、白いワンピース越しの胸や尻は肉付きが全く物足りなくて、馬鹿の言う「貧相」という言葉は的を射ている。
「いいけどね。
貧相だろうが女の体してるなら使えるっしょ。
今日、俺達と遊ばない?」
「断る。あたし達には予定があるんだ」
「いいじゃ~ん、予定なんて今日じゃなくたってさぁ」
「時間は無限じゃないんだ。
おまえみたいな人間に使ってやる余分は1日だってない」
「なんだよ、そこまで言うことな、」
馬鹿の言葉を最後まで待たず、ティアーは右手に拳を作ってそいつの顔に埋め込んだ。
この前は足で、今日は手か。容赦ない。
仮にも魔物の腕力で、手加減なく人間の顔に突っ込めばタダじゃ済まない。
一瞬で昏倒して、後ろに倒れ込んだ。
ひっ、と、1人が引きつれた悲鳴を喉の奥で噛み殺した。
こいつは最初っから何も話してなかったから、腰ぎんちゃくみたいな奴なのかもしれない。
「てめぇ、何してんだっ」
クズの集まりとはいえ仲間意識はある、それは俺もそうだったから知ってる。
もう1人の男が怒りのままティアーに掴みかかろうとして、しかし彼女の反応の方が早い。
その場にしゃがみ込んで、今度は拳を男の腹に叩き込む。
よほど重い拳だったのか、吐瀉することすらなく気を失って、前に倒れ込んだ。
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