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「まったく、これで何度目だ?
豊に会う度いっつもこうじゃないか。
面倒だなぁ」
「それはこっちの台詞だよ。
人間は魔物と違って、暴力沙汰になったら喧嘩売られた方だってあれこれ言われるんだから、ここまですんなって何度も言ってるだろ」
「他人に片付けを任せておいて偉そうに。
だったらその腕をさっさと治して、自分でしたいようにすればいいんだ」
ギプスはもうすぐ外れるが、リハビリして元通りに動かせるようになるまであと2か月はかかるらしい。
昨日診てもらった時にそう言われた。
「言っておくが、いくらダムピールの血がヴァンパイアに効くといっても、接近出来なければ意味がない。
腕が完全に治るまではどうにも動けないからな」
「わかってるよ。
第一、探し始めたからってそんなにすぐ見つからないんだろ?」
そも、俺の父親のヴァンパイアに関する手がかりなんて、俺はまるで持ってない……
たったひとつ、母親が襲われた場所がどこか、街の名前だけは知ってる……
教えてもらったわけじゃなく、単純な話、母親の実家がある街だから。
ヴァニッシュに手がかりを訊ねられ、それしかないことを伝えたけれど。
「……わかった。
とりあえず、それを足掛かりに始めよう」
たったこれっぽっちでも一応、参考にはなるらしい。
俺の学校が終わるのが大体15時過ぎ、ヴァニッシュは17時から居酒屋でバイトしているとかで、行動を共にして使える時間はかなり少ない。
幸い、その店が定休日ということで、今日だけは夜まで付き合ってくれる約束だった。
俺の今住んでいる町は少し田舎で、ヴァニッシュが知っている「ヴァンパイアの情報を得られる民間施設」というのがない。
電車に乗って数駅先、そこそこ栄えた中都市まで出かけないといけない。
実際、ティアー達はそこにある森の奥で暮らしているそうだから……。
「あたしだけだったらわざわざ列車なんか乗らなくたって、狼に戻って森を走ればあっという間なのに」
不満そうに頬を膨らませて、車窓のさんに肘をついて流れる景色を眺めながらひとりごちている。
そういうわけで、ティアーはわざわざ俺を迎えに来てくれている。
そもそも前提からして、ヴァニッシュが俺に付き合ってヴァンパイア狩りなんて何の得もないことに関わるのさえ、ティアーは反対なのだから。
色んな意味で俺は頭が上がらない立場だった。
ワー・ウルフというのは、狼の姿と人間の姿、どちらにもなれる魔物だという。
あくまで本来の姿は狼で、人間になれるっていうのは副次的。
狼のまま行動する方が楽だし、強い。
用事さえなければ基本は狼の姿でいたいというのだから、ティアーがストレスを感じるのも無理はない。
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