群雨

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青島の言葉に美優は驚いて、そんな!っと顔を上げた。 「宏さん、王くんがそんなことする訳ないじゃないですか。」 未来も夢中で青島の腕を掴んでいた。 そんな未来の手に、そっと自分の手を重ねた青島は、美優に向かって諭すように問いかけた。 「そう。少なくとも俺たちが知っている彼は、そんな不誠実なことをする男ではないんだ。だけど君が知っている彼は、そんな事をしそうな男なのかな?」 美優は、ハッとしたように左手で口を覆って、目を見開いた。 「そうだろう?そんな男じゃない。君が見ていた角度で、たまたまそう見えただけだ。」 言い切る青島の気迫に押されたのか、美優は勢いよく立ち上がると、頭を下げた。 「ごめんなさい。向こう側から見ていたら、顔が重なったように見えて、それだけなんです。突然、押しかけて変なこと言ってしまって、本当にごめんなさい。」 大人2人に叱られているような美優が、何だか気の毒に思えてきて、未来は立ち上がると、そっと美優の肩に手を置いた。 「わかってくれたら、もういいの。頭上げて。」 そして、もう一度、美優を椅子に座らせると、気まずい空気を感じながらも、未来は口を開いた。、 「王くん、もう大学には行かないんでしょう?何か言いたいことがあるんじゃないの?」 お節介かなと思いながらも、切羽詰まって見える美優に、未来は声をかけずにはいられなかった。 美優は寂しそうに笑いながら、首を振った。 「勢いに任せてここに来ちゃっいましたけど、さっき姿が見られただけでも、良かったです。もうそれさえも諦めてたから。」 今日、王と会ったことで、王がいなくなる寂しさは未来も感じていた。 どうしようもない沈黙の中、雨の音が小さくなったような気がして、外の様子を確かめようと青島は立ち上がり、事務所の戸を開けた。 「さっきよりはマシのようだ。今のうちに、」 送って行こうか、と振り返った青島の言葉を遮るように、未来が言った。 「王くんを呼んで、ここでみんなでご飯を食べましょう。」 すかさず青島が、はあっ⁉︎と、らしくない声を上げた。 「さっき、再見(サイチェン)会をしようって、みんなで約束したんです。メンバーは違うけど、再会を願う会なら、何回やってもいいでしょう。」 いろいろ突っ込みたい所だったが、今にも飛び出していきそうな未来を、青島が止めた。 「わかったよ。わかったから、俺が電話してみる。」 青島は観念したようにそう言って、携帯を手にした。 「宏さん、王くんの連絡先知ってるんですか?」 未来は意外と言った様子で、言った。 「あぁ、誰かさんのおかげでな。」 青島はそう言って、未来を一瞥すると、さっそく電話をかけ始めた。
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