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「あの…。」
蚊帳の外に置かれた美優に、未来は今更だなと思いながら、とりあえず聞いてみた。
「白石さんの都合は大丈夫だった?でもこの雨じゃ帰れないし。あとで宏さんに送ってもらいましょっ。」
私にもこんな一面があるんだな、と未来は自分自身に驚きつつ、美優に向かって手招きをした。
「ごめんね。ご飯食べようって言いながら、今から支度するの。手伝ってくれる?」
頼りなく笑う未来に、美優は少し唖然としながら、
はいっと返事をすると、やっと笑顔になった。
冷蔵庫の中から使えそうな食材を、あれこれ出していると、電話を終えた青島が、未来の背中に向かって言った。
「ちょうど麻婆豆腐を作ろうとしていた所だから、持ってくるそうだ。ご飯も炊いたところだって言ってたぞ。」
それを聞いた未来は、満面の笑みを浮かべて、青島の方を振り返った。
「やった!この間は、少ししか食べれなかったから。」
と一瞬喜んだものの、すぐに真顔になった。
「電話、長かったですね。王くん、びっくりしていたでしょう?迷惑そうでした?」
未来の問いかけに、思わず失笑しそうになって、青島は慌てて顔を繕った。
「最初は驚いてはいたけど、大丈夫だったよ。喜んでた。」
嘘ではなかった。
青島からの突然の電話に対して、王の第一声は、未来に何かあったのかと、心配する言葉だった。
そんな王の反応に、青島は一瞬閉口してしまい、更に不安を煽ったようだ。
「シャチョウッ⁉︎」
と電話口での王の強い口調に、ハッとして、青島は事のいきさつを、かいつまんで話した。
ほっとしたようなため息と共に、良かったと呟く王に、青島は別の意味で、ため息が出そうになってしまった。
麻婆豆腐を持っていきます、と言った後、王が何かしら言葉を続けたのが、聞き取れなくて、青島はえっ?と聞き返した。
「シャチョウハ スゴイデス。モトカレト シゴトスルトイワレタラ ボクハ タエラレナイ。」
青島は、頭をガンと打たれたような気持ちになりながら、『モトカレ』なんて言葉知ってるんだなと、どうでもいいことを思っていた。
青島は、大きくため息をつくと、20近くも年下相手に、ついつい本音を漏らしてしまう。
「平気じゃない。だから平日だって言うのに、仕事を早めに切り上げて来てるんじゃないか。それなのに君にまで追い打ちをかけられて、参ったよ。」
まさか青島がそんな弱音を吐くとは意外だったのだろう、やがて王は笑い出した。
「ダイジョブデスヨ。ボク シャチョウノコト ミトメテマス。デハ アトデ。」
おかしくてたまらないと言った様子で、一方的に電話を切られてしまい、青島は、はぁ?っと素っ頓狂な声を上げた。
なぜ俺が、お前に認めてもらわなきゃいけないんだ?
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