群雨

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群雨

(ひろし)さん!」 2人の女性を見下ろすように立つ、青島のその表情は、あからさまに不機嫌そうで、その迫力を前に、先程まで未来(みき)に食ってかかっていた美優(みゆう)も、たじろいでいる。 その時だった。 一瞬の閃光の後に、耳をつんざく音がして、ザッーと一気に雨が強くなった。 未来は何かを叫び、咄嗟に美優の手を引いて、事務所の中に引っ張り入れた。 青島も、駆け込むように中に入ってくると、事務所の引き戸を閉めて言った。 「大丈夫か?」 「はい。宏さんは?」 と青島の足下に目をやると、もう既にびしょ濡れになっていた。 「宏さん、着替えなきゃ。」 未来は、自宅である奥の部屋に入ろうとして、はたと気づいて美優に言った。 「とりあえず、あなたはそこに座ってて。」 真っ直ぐな目をした未来に、美優は、はいと小さく返事をすると、その言葉に素直に従った。 青島が着替えている間、未来は3人分のアイスコーヒーをグラスに注ぎながら、突然現れた2人の来訪者について考えていた。 自分と王にかけられた、あらぬ疑いを晴らさなくてはならない。 着替えを終えた青島は、台所にやってくると、訝しげに事務所を指差した。 「何なんだ?あれ。」 「王くんの大学のお友達みたいです。なんか勘違いしてしまっているようで。」 そう小声で答えた未来は、コーヒーを載せたトレイを手にして、美優の待つ事務所まで持って行った。 「お待たせしてごめんなさい。今は外に出られる状況じゃないから、コーヒーでも飲んで、雨宿りしていって。」 美優は戸惑いを見せながらもお礼を言うと、シロップとミルクを入れたアイスコーヒーを、ストローでかき混ぜながら、チラッと青島の方を見た。 降り続く雨のせいなのか、蒸し暑くて息苦しい。 「ごめんなさい、暑かったね。」 そう言って、未来はエアコンのスイッチを入れると、2人に向き直って口を開いた。 「白石さん、こちらは私がおつき合いをしている青島宏さんです。」 「宏さん、彼女は王くんと同じ大学に通う白石さんです。」 紹介する当の未来も変な気分だったが、美優も疑問に感じたようで、恐る恐る口を開いた。 「王くんを、ご存知なんですか?」 きっかけを待っていたように、青島は間髪を入れずに答えた。 「あぁ、知ってる。君がさっきキスをしていたと言うのは、彼とここにいる彼女のことかな?」 「宏さんっ⁉︎」 思わず大きな声を出した未来に、青島は分かっていると言わんばかりに頷くと、美優を見た。 美優は2人の様子を見ながら、遠慮がちに首を縦に振った。 「かわいい車が止まっているなと思って見ていたら、王くんとお姉さんが降りて来て、びっくりして…。」 「それで?」 「もう会えないと思っていた王くんがいて。だから私、目が離せなくなってしまって。そうしたら王くんがお姉さんに、キスをしたように見えたんです。」 そこまで話してから、美優は俯いてしまった。 そんなことはお構いなしに、青島は平然と美優に問いかける。 「そうか。それが事実なら、俺は今すぐ彼の部屋に行って、一発殴る権利があると思うんだけど、どうだろうか?」
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