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てんてんてん、と階段の上から恋が落ちてきた。
それは誰もいない階段を一段ずつ跳ねながら転がってくる。
いびつな形をしているせいで時折跳ねる方向を変えながらもおおよそ真っ直ぐにこちらへと向かい、そしてそのままぺたりと僕の足元に貼りついた。
『恋』だ。
誰のだろう。
僕は床に貼りついた薄っぺらな黒文字を爪でかりかりと引っ掻いて拾い上げる。この文字はとても軽く、持ち上げても『亦』と『心』は離れることはない。
手に取った瞬間、所有者の名前が頭に浮かんだ。
──華原恋色。
その名前を僕は知らなかった。
けれど、華原という苗字には心当たりはある。おそらくこれが彼女の『恋』であることは間違いないだろう。
僕は少しだけ迷った。この『恋』を届けるべきだろうか、と。
彼女がどうしてそんなことをしているのかわからなかったからだ。そこに踏み込んでしまってもいいのだろうか。
少しの間考えて、僕は『恋』をブレザーのポケットにしまって階段を上り始める。
さすがに届けてあげるか。
教室へと向かいながら、僕は念のためもう一度ポケットに手を入れる。
クラスメイトの名前の一文字が、確かに指先に触れた。
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