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からからから、と教室の扉を開くと着席していた生徒全員が一斉にこちらを向いた。
まるで僕がクラスの人気者みたいだが残念ながらそうじゃない。
理由は単純明快だ。
「墨田昭人、遅刻だぞー」
「すいません。困ってるおばあちゃんを助けてました」
「いつもそれだな。おばあちゃんを助けるのがモーニングルーティンなのか」
「苦しんでる人を放っとけないです」
「それは正しい。はやく座りなさい」
担任に促され、僕は最後列の自分の席に向かった。
クラスメイトたちは何事もなかったかのように再び前を向き、ホームルームが再開する。
「今日のおばあちゃんは何で困ってたの?」
僕が席に座ると、隣の席の華原はこちらを向いた。淡く茶色がかった瞳をきらきらと光らせる。
どうも彼女は僕が助けたおばあちゃんの話を聞くのをモーニングルーティンにしているらしく、毎朝欠かさず同じ質問をしてくる。
「新しいスマホにエアドロップが見つからなかったんだって」
「最近のおばあちゃんの悩みって進んでるね」
「昨日はそれ探すのに徹夜したらしいよ」
「エアドロップへの執念よ」
「結局、新スマホがアンドロイドだっただけなんだけどね」
「ミスが痛恨すぎる!」
隣の席の彼女のツッコミは思った以上によく響いて「華原色うるさいぞー」と担任に注意されていた。
くすくすくす、と小さな笑い声が聞こえ、当の華原は「すいません……」と恥ずかしそうに顔を俯かせる。
「隅田くんのせいで怒られたじゃん」
「恨むなら自分の声量と芸人魂を恨んでよ、華原恋色さん」
「いやそのオチはツッコミ不可避……って、え?」
彼女は驚いた表情で頭を上げる。
そして今度は周りに聞こえないよう声を潜めて尋ねた。
「……なんで私の名前知ってるの?」
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