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6
ぱらぱらぱら、と雨が窓にぶつかる音がする。
屋上は水浸しだろうな、とついあの場所のことを考えてしまうのは、昨日の質問の答えをずっと考えていたからだろうか。
「墨田昭人、遅刻だぞー」
「すいません。困ってるおばあちゃんを助けてました」
「よく毎朝毎朝困ってるおばあちゃんに出くわすもんだな」
「おばあちゃんは基本困ってますよね」
「偏見は捨ててはやく座りなさい」
僕は自分の席に向かった。いつものやり取りにクラスメイトたちは微動だにしない。
この中の何人が僕の話を信じているんだろう。
「今日のおばあちゃんは何で困ってたの?」
隣の席の華原は今日も瞳を輝かせる。
今思えばこの質問は、何気ない日常の中にドラマチックを期待してのものなのかもしれない。
「傘がひっくり返っちゃったって困ってたんだ」
「ああ、あるあるよね。私も子供の頃そこに雨貯めてたっけ」
「おかげでテレビが見られないって嘆いてたよ」
「もしかしてパラボラアンテナの話してる⁉」
雨音をものともしない彼女のツッコミに担任は無感情に「華原色うるさいぞー」と窘め、華原は顔を俯かせる。
「とまあ、ここまでがルーティン」
「私が恥かくルーティンやめてほしいんだけど」
不満そうに口を尖らせる華原に僕は声を潜めて言う。
「けど、ルーティンを外れるのはここからだ」
「何の話?」
彼女は首を傾げる。僕は端的に用件を話した。
「明日の朝、屋上に来てほしい」
「明日って土曜日だけど」
「人が少ないほうが都合良いんだ」
怪訝そうな表情の彼女に、僕はポケットの中のものをこっそりと見せる。
雨と泥で汚れた『恋』。
さっきグラウンドの真ん中に落ちていたものだ。本当によく飛ぶらしい。
「説明するよ。僕がどうして何度も君の名前を拾うのか」
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