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本番
夏祭当日。
昼には、法被姿の大人や子供達が集まり、神輿を担いで村中を回った。
号令の笛と、太鼓。大きなうちわ。掛け声と共に跳ね上がる、大小の神輿。その賑わいに、集まってくる人々。道中、引っ張ってきたホースを使って、空高く水飛沫を舞い上げる。
髪も法被も、汗と一緒にキラキラと濡れ、照りつける陽光の熱を和らげる。
寂れた商店街から公園まで、たこ焼き、焼きそば、チョコバナナ等の屋台が立ち並び、日が暮れてくると、夜のお祭りに集まった人々で活気に溢れていた。
人の間を潜り抜け、公園へと向かう。この人の多さに、集合も点呼も難しいだろう等と、頭の片隅で考えていた。
醤油の焦げた、焼きとうもろこしの匂い。
香ばしいソースの香り。
ガリガリと氷を削る音。
わたあめを作る為の、自家発電の爆音。
りんご飴の屋台の前に並ぶ、浴衣を着た女子数人。その列の間を、足早に通り過ぎる。
やがて公園の入り口前に辿り着くと、思いがけず探していた人物がそこに突っ立っていた。
「……来てくれたんだね、白川くん」
息を切らせながら近付き、笑顔で白川に声を掛ける。
後ろで無造作にひとつに纏めた、銀色の髪。真っ白な甚平。
この人混みの中でも解る程、妖しく、眩しく。後光が射したかのように、輪郭をぼんやりとさせていた。
細くて長い首筋は、衣に負けない程──絹のように白く、合わせ目から覗く鎖骨の辺りから、何ともいえない色気が漂う。
「少しだけ、いいかな?」
「……」
そう訊ねるものの、相変わらずぼんやりとしていて。その掴み所のない態度が、何とも癪に障る。
「盆踊りが始まる前に、君に見せたいものがあるんだ」
沸き上がるその感情を押し殺し、満面な笑みを作って見せる。
……どうせ白川は、意思なんて示さない。強引に誘えば、黙ってついてくるだろう。そう高をくくっていた。
「……」
首を傾げる白川。
さらっ、と長い前髪が揺れ、横に流れ落ちる。
その隙間から覗くのは──薄灰色掛かった、瞳孔。
「──!」
無機質なそれが、真っ直ぐ僕を捉えて離さない。
僕の全てを、見透かすかのように。
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