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転校生
それは──夏休みまで、あと一週間に迫っていた時だった。
「転校生を紹介する」
ミーンミンミン……
教卓の前に立つ担任──中野慶司が、廊下に向かって手招きをする。
三十代後半。細身で高身長。短く切り揃えた黒髪に黒縁眼鏡。目尻に出来る笑い皺は、優しげな印象を与える。
ふわりと、風のように入ってきたのは、眩しい程に光る──男子。
「……」
低身長。華奢な身体。
肩まで伸びた、細くしなやかな銀色の髪。半袖の白いスクールシャツから覗く柔肌は、布地に負けない程に白く、透き通るようだった。
長い前髪の隙間から覗く、形の良いアーモンドアイ。瞬きする度に前髪の毛束を揺らす、長い睫毛。
スッとした小さな鼻の下にあるのは、ふっくらとした口唇。白い肌に映える程、血濡れたように赤い。
「白川光音くんだ。みんな、仲良くするように」
「……」
男の癖に、見た目は女のよう。
加えてキラキラネームとあれば、このド田舎の土臭いクラスに、異質な空気が流れ込む。
「では、あそこの空いてる席に座ってくれ」
「………はい」
先生が、真ん中の列の一番後ろを指差すと、少しだけ顔を上げた転校生がか細い声で答え、静かに壇上から降りる。
動く度に靡く、銀色の毛先。
細くて長い、首筋。
「……」
その異質ながら美しい存在に、クラスメイトの誰もが目を見張り、息を飲んだ。
「……」
しかし。
何処か飄々としていて、掴み所のない空気を纏うこの転校生は──
近寄るクラスメイトの誰とも関わりを持たず、始終ぼんやりと窓の外を眺めているだけだった。
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