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練習初日
盆踊りの練習初日。
月明かりの下、広場に張り巡らされた提灯に、ぼぅっと明かりが灯る。
ぞろぞろと集まってくる、小学5年生から中学3年生までの学生達。普段は大人しい夜の園内が、それだけで活気に溢れる。
小学生組と中学生組のふたつに分かれた後、更に学年毎に分かれて並ぶ。
学校での制服姿とは違い、夜の私服姿のクラスメイトは、いつもの印象をガラリと変えた。
「丸山くーん!」
点呼を取っていると、小走りしながら此方に向かってくる麻生さんが、笑顔で手を振ってきた。
艶感のある、黒のハーフアップボブ。走る度にふわりと跳ね上がる、飾りのリボンと髪の毛先。普段は見せる事のない、肩を大胆に露出した、ワンピース。
心なしか、唇が紅を引いたように赤い。
「……」
麻生さん──麻生紗栄子は、母親が都会から嫁いできたせいか。この田舎で生まれ育った割には素朴さを感じさせず、芸能人のような可愛らしい目鼻立ちをしていた。
その為、男子達の間で人気があるのは、今も変わらない。
「ごめんね、遅れちゃって……」
苦しそうに息を切らし、少しだけ前屈みになった麻生さんが顔を上げ、屈託のない笑顔を僕に向ける。
ドクン──
間近に感じる、息遣い。
するりと滑り落ちる、細い肩紐。
紅潮した頬に、上目遣い。
汗ばんだ、肌。
生温い風に乗って麻生さんから漂う甘い匂いが、悪戯に僕の鼻腔を擽った。
「……大丈夫、だよ」
ドクン、ドクン、ドクン……
高鳴る胸を抑え、平然を装いながら笑顔を作って返す。
「そっか。……良かった」
横髪に手をやり、麻生さんが身体を起こす。
その仕草も。雰囲気も。全てが魅力的に僕の瞳に映り……ざわざわと、胸の奥をざわつかせる。
役得ともいうべきか。学級委員であるが故、麻生さんと……それも私服姿を間近に捉えながら会話ができるなんて、夢にも思わなかった。
「……」
ドク、ドク、ドク、
緊張と高揚から、身体の深部が熱く滾る。
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