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スル……
細い腕に絡み付く、二本の腕。
ビクッとして麻生が横を見れば、直ぐそこにいたのは──山口晴菜。
「……もぅ。遅いよ、紗栄子」
「ごめんごめんっ、」
「来ないから、心配したじゃん……」
ふて腐れながらも、麻生の腕をしっかりと抱き、縋りつくような目を向ける。
長い髪を、ふたつに分けて耳上で縛り、ピンク色の花のついたパッチン留めで、斜めに流した前髪を留めている。
背が低く、麻生の影響を受けたのだろう可愛らしい仕草を時折感じるものの、長年染みついた田舎臭さからは抜け出せそうにない。
「点呼、もう終わったんでしょ? あっち行っていい?」
「………あ、うん。勿論!」
少し強気な態度でものを言う山口に、笑顔を作って返す。
「それじゃ、また後でね。丸山くん」
「……」
僕の気持ちを揺さぶるかのように、天使のような笑顔を向けた麻生さんが手を振ってくれる。一度も此方を見ず、腕に絡み付く山口に引っ張られながら。
「……」
一部の腐った男子の間では、あの二人が只ならぬ道を歩んでいると睨み、密かに見守っているらしい。
提灯から漏れる赤い光が、背中を向け歩いて行く二人を、より美しく幻想的に魅せた。
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