練習初日

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「……こらー、そこっ! 早く帰りなさい!!」 公園の出入口で騒いでいた所に、お祭り主催者達が駆けつける。 「すみませーん」 「はーい」 「……やっべー、逃げろ!」 キャッキャと騒ぎながら、逃げる様にバラバラと帰路につく。 長田先輩は、千明先輩と。山口さんは、婦人組の三人と。 そして──麻生さんは、窪塚と。 当たり前のように繋いでいた、二人の手。 「……」 その後ろ姿をじっと見つめながら、込み上げてくるやりきれない気持ちを必死で抑える。 じゃり…… 背後から襲う、大きな影。 驚いて振り返れば、直ぐそこにいたのは──小山内圭吾(けいご)。 「丸山も、早く帰るんだぞ」 夏祭り主催者の一人である、中学校の体育教師。四十代。筋肉隆々で、ガッチリとした体格。太い腕やランニングシャツの胸元から覗く、濃い体毛。暑苦しい程の濃い顔。 「……すみません。 皆が帰るのを確認していたら、最後になってしまいました」 「そうか。……確か丸山は、二年の学級委員だったな」 「はい……」 「……責任感があるんたなぁ、丸山は……」 「……」 じっとりと、纏わり付くような湿った微風。先生から漂う汗臭さが、鼻につく。 それに気付いたのか。ポケットから手拭いを取り出した先生が、額や首の汗を拭う。 「一人じゃ心細いだろう。家まで送ってやる」 「いえ、大丈夫です。……ここから近いし、僕は……男なので」 視覚からだけでも、暑苦しさを消したくて。少し深めに頭を下げる。 「………今は、男でも物騒な時代だぞ」 じゃり…… 半歩、先生の足が近付く。 僕の靴先との距離は、僅かしかない。 顔を上げれば、濃い顔が僕を上から覗き込み、口元を大きく歪ませていた。 「……」 額から流れ落ちる、汗。 微かに吹く風が、ヒヤリと僕の肝を冷やす。
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