1人が本棚に入れています
本棚に追加
春。
私がいつものように職場に向かって歩いていると、頭上を一閃、影がよぎった。
燕だ。
その黒い姿が疾る空から、明るく柔らかいものが私の上に落ちてきた。
燕はその翼で、春の柔らかな光を次々と、鋭角な夏の日差しに削り変えていった。
ふわり、ふわり。私の上に降り注ぐ。
削り取られた春の日差しを手に受けて、そっと頬を寄せ堪能した。ああ、あたたかい。
俯いた私の首筋に、光が刺さる。
夏は、きっともうすぐ出来上がる。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!