春の彫刻家

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 春。  私がいつものように職場に向かって歩いていると、頭上を一閃、影がよぎった。  燕だ。  その黒い姿が疾る空から、明るく柔らかいものが私の上に落ちてきた。  燕はその翼で、春の柔らかな光を次々と、鋭角な夏の日差しに削り変えていった。  ふわり、ふわり。私の上に降り注ぐ。  削り取られた春の日差しを手に受けて、そっと頬を寄せ堪能した。ああ、あたたかい。  俯いた私の首筋に、光が刺さる。  夏は、きっともうすぐ出来上がる。 〈了〉
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