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第2話【星の見た夢】
私は、わがままな上に、ずるい女だ。彼の事を好きになりきれないのに、彼の好意と優しさに甘え続けている。
「お待たせいたしました、フェアリースターでございます」
彼が少し気取りながら、私の目の前に淡いペールグリーンのお酒が入ったグラスを置いた。飲み口に、星型の果物のスライスが乗っている。
「綺麗……」
「流れ星に出会えなかったお姫様に、ささやかながら私からのプレゼントでございます」
「ふふっ、ありがとう」
つまみあげたフルーツは白く透き通り、甘酸っぱい香りがした。少し齧るとサクっという音がして、口いっぱいに酸味が広がる。
「すっぱい」
「ははっ、そこを楽しむんだよ。それ、スターフルーツっていうんだよ」
「あぁ、テレビで見たことある」
「そのカクテルも、スターフルーツのリキュールを使ってるんだ。お洒落だろ?」
「へえ~」
星の果物には私の歯型が付いていた。人間に齧られたこの星の夢は何だっただろう。
そんな事を考えながら飲んだカクテルはとろりと甘く、目が覚めるような爽やかさだった。この星の夢の味なのかもしれない。
「おいしい」
「うん、よかったよかった」
彼は優しい。でも、彼の優しさに触れるたび、私はここにいてはいけない気もして、苦しくなってしまう。
彼の腕の中で柔らかいベッドに身を任せ、静かな寝息を首筋に感じながら天井を見つめていた。
いつの間にか、もう二十代終盤。父親や周囲からの結婚の期待が増しているのが分かる。私の中の冷静な自分も、そろそろ頃合いだとも思ってる。三十を越えた彼もきっと、口や態度には出さないけど、同じように考えてくれているのだろう。
彼とはもう、五年の付き合いになる。毎年この季節になるとふさぎ込む私に呆れもしないで、ずっと一緒にいてくれている。ありがたいことだ。きっと私一人だったら、寂しくて悲しくて、鬱にでもなっていたかもしれない。
きっと彼は私を幸せにしてくれる。私が幸せになることで彼も幸せになるというのなら、それ以上喜ばしい事はないんだろう。
……でも。
私の心の中の少女は、ずっと一人の人の影を追い続けていた。それが、今私の横で眠る彼、修治を好きになりきれない理由だった。
目を閉じると、瞼の裏には壮大な夜空が広がり、幾つもの流れ星が叶わぬ恋に焦がれて命を燃やしていた。
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