僕のお宝

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 本物の文化人でも、この世で成功していないと、これは(俗物とは違う)という女に出会う機会がないし、いい女をゲットできない。手前味噌ながら僕もその口で慧眼を持っているし、くだらない女としか出会えないから女より車の方が価値があると思う。車と言っても本物のスポーツカーに限る。それはスタイリングにしろメカニズムにしろ走りにしろドライバーにとって紛れもなく芸術品であるが、世の中の価値観が狂っていて可笑しいから僕でもゲットできる。つまり不当に旧車が高騰する中で本来価値があるのに付加価値が余り付かない中古車を狙えば良い訳だ。そういう意味で僕の買ったホンダビートはハイコストパフォーマンスで大当たりと言って良い。  つい四ヶ月前リビルトエンジンに乗せ換えたら一層、価値ある車になったのだ。嗚呼、何という素晴らしいエンジンフィール!回転がウルトラスムーズで殊にサウンドが感動的!エキゾーストノートも素晴らしくトンネルの中にひとたび入れば、そこはホンダミュージックホールに早変わり!音が反響して1960年代のホンダF1マシン宛らの音がして僕を昇天させてしまうのだ。いやあ、ほんとに嘘じゃないけど、嘘みたいにファンタスティックでアーティスティックな音を堪能することが出来、これだけで物凄い価値ある車と思える。元々吸排気系がチューンしてあるし、F1の技術が踏襲された3連スロットルボディを搭載しているし、本田宗一郎の息吹がかかった最後の車だからだろう。  ミッドシップだからエンジンが運転席の直ぐ後ろにあるし、よりダイレクトにエンジン音吸気音を聴こうと普通の車のボンネットに当たるエンジンカバーを外してあるからオープンで走ると、本当に古き良きホンダF1マシンに乗っている気分になる。  ステアフィールもシフトフィールもアクセルレスポンスも良好でカーデザイン界の巨匠ピニンファリーナに任しただけにスタイルもイタリアンで申し分なく軽でオープンカーなのにボディ剛性が高くホンダが本気で造ったことが手に取るように窺えて僕にとってお誂え向きの全く以て良く出来た良い車だ。だから凄腕の泥棒になって窃盗でもしない限りゲットできない高価な物を手に入れられたと実に得した気分にもなれるのだ。そうしてビートを所有し、ファン・ツー・ドライブすることが僕の文化人の文化人たる所以の一つだ。
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