泥棒をつかまえたのは赤い花

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     隣近所の誰かが、俺のことを通報したのだろうか?  そうも思ったけれど、どうやら違うらしい。 「あれ? この家の人って、年老いた女性のはず……」  制服警官が、俺の顔を見た途端に呟いたからだ。俺のような者がいたのは予想外、という反応だった。  三人の中で一番若いのが制服警官であり、隣のスーツ姿の男に小突かれていた。余計なことは喋るな、と怒られたようだ。  最初に警官の制服に気を取られてしまったが、この様子では、残りの二人も警察の人間。私服の刑事たちに違いない。 「はい、ここは母の家です。私は遠方に住む息子で……」  落ち着いて対応したつもりでも、そんな言葉が口から出てしまう。「息子」では近すぎるから、もっと縁遠い立場の方が良かっただろうに。 「ああ、息子さんでしたか。それで、お母さんの滝本さんは……?」 「母は出かけています。申し訳ありませんが、母に用事でしたら、後日改めて……」 「出かけている……? 遠くから息子さんが訪ねてきたのに……?」  せっかくなので親子水入らずの時間を過ごすべきであり、そうするのが普通。刑事はそう思ったらしい。  想定外の反応だったけれど、この程度ならば慌てる必要もなかった。 「私が悪かったんでしょうね。あらかじめ言っておかず、いきなり来ちゃったんですよ。だから母は私が来るとは思わず、出かけてしまったようで……。とりあえず合鍵で入って、母を待つことにしました」 「ああ、なるほど。では我々も一緒に、待たせてもらってよろしいですか?」  この刑事は「せっかくなので親子水入らずの時間を」という考えではなかったのだろうか? 「いや、それは……。どんな用件か知りませんが、できれば日を改めて……」  顔をしかめながら俺が口ごもると、もう一人の刑事が会話に参加してきた。 「だったら、代わりに息子さんにお願いしましょう。今日は私たち、この家のガーデニングを見せていただきたくて来たのです」 「は……? わざわざ警察が三人も、ガーデニングを見るために……?」  息子の演技も忘れて、俺は素で聞き返してしまう。 「ええ、一応この家の人に立ち会っていただく必要もあるのでね。厳密には『この家の人』じゃないですけど、息子さんなら大丈夫でしょう」 「はあ。それくらいでしたら……」  よくわからないが、その立ち会いとやらを早く済ませて、さっさとこの三人を追い返してしまおう。  そう考えた俺に対して、刑事が驚きの言葉を投げかけてきた。 「実は『この家で麻薬栽培が行われている』と通報があったのです」    
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