泥棒をつかまえたのは赤い花

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     リュックと言ったら少し大袈裟だが、確かに私は、鞄を背負ったままだった。  三人を玄関で出迎えた時も、裏庭まで案内してきた間も「ずっと」というのは、警官の目には不自然に映ったのだろう。  盗み出した戦利品や、大切な仕事道具が入っている鞄だ。私の正体を知らぬ彼は、それを泥棒としての仕事道具でなく、麻薬組織の仕事道具と思ってしまったらしい。  そこまで具体的な疑惑ではないにしても、二人の刑事たちも「なんだか怪しい」と感じ始めたようで……。 「背中の鞄の中身、見せていただけませんか?」 「後ろめたい物でないなら、構いませんよね?」 「いやいや、これは私の私物なので……」  なんとか誤魔化そうと俺が頑張る中、(おもて)の方から怒号が聞こえてきた。 「お前たち! うちの庭で何やってるね!?」  この家の住人である老婆が、帰ってきてしまったのだ。  予想よりも早い帰宅だった。  (あと)で聞いた話によると、近所の者から「見慣れない男たちが庭で騒いでいる」という電話が彼女のスマホに入り、それで慌てて戻ってきたのだという。  彼女の到着により、俺が息子でないことも露見。鞄の中身も調べられて、もはや言い逃れも出来ず、その場で(つか)まってしまった。  なお、これも(のち)に聞いた話だが……。  あの家でケシが植えられていたのは、やはり計画的な麻薬栽培ではなかった。いつのまにか生えていた草に綺麗な花が咲いたので、それを気に入った老婆が、頑張って増やしたという。  せっかく育てた花を全部処分することになり、彼女は不満たらたらだったそうだ。 「知ってるか? ケシの花、特に赤いやつの花言葉は『感謝』らしいぜ」  取り調べの刑事が、そう言って笑う。 「今回の騒動のせいで、滝本さんはお気に入りの花を処分する事態になり、お前は俺たちに(つか)まった。結局、誰も『感謝』なんて出来ない結果になったな」 「はあ、そうですね」  適当に相槌を打ちながら、俺はふと考えるのだった。  確かに俺は、あの赤い花のせいで逮捕されたようなものだ。「妙に心惹かれる美しさ」と感じた理由も、今ならば理解できる。あのケシの花がつけていた実こそがあの家で最も高価だった物であり、俺の直感が察知したお宝の正体だったに違いない、と。 (「泥棒をつかまえたのは赤い花」完)    
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