記憶にない記憶

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「ハイ!お疲れっ!ちょうど3分!」  顧問の先生が筒状に丸めた台本で、パン!と左手を叩いた。 「もうちょっと大袈裟に表現してもいいかなー。緊迫感を出していこう。学校説明会に来た中坊達に、高校生の演劇って迫力ある!って思わせなきゃ」  私達N高校演劇部は、秋にある学校説明会の際のクラブ紹介で上演するショート劇の練習の真っ最中だ。  体育館の舞台で、1分で準備、3分発表、1分で片付けながら部へのお誘い、というハードスケジュールを強いられている。  いや、コレ中学生が観て意味わかるの?と思える台本の内容。  3分間という短い時間でどれだけ喜怒哀楽を表現出来るか、を追求したらしい。内容はどうでもいいのか?  私は生徒Cで、ちょっと天然の入ったミーハー女子の設定。  「人体の…」のくだり、身振りをもうちょっと大袈裟にしてみようかな。  そういえば、生徒Bの美里はどこへ行った。  私は辺りを見回した。 「あ、美里!」  ステージの横の階段に座り込んでいる美里。 「美里、どうしたの?大丈夫?」かけ寄る私。 「あ…うん。私…この台本を手にした時から、何か怖い事を思い出しかけている気がするんだけど…それが何かわからないの」  青白い顔をして、額の大きな傷痕を触りながら美里はつぶやく。 「人体の不思議ってか。気のせいだよ。ほら元気出して行こー!」  そう笑いながら美里を励ます私の心臓は、冷たい血を纏いながら高鳴る。  あの時は…ちょっとふざけただけなの!まさかあんな事になるなんて…。  ねぇ、美里…それはもしかして…演技?
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