花とてんびん

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✿✿✿✿✿✿ ⚖  パトカーの中は気詰まりだった。  捕まったのは初めてなので、正直ちょっとドキドキしている。そんなオレの繊細な心も知らないで、隣に座る警察官が鼻で笑った。 「盗みに入って、収穫がそれひとつとは……災難でしたねぇ」  皮肉だ。思いっきり皮肉を言ってやがる。  この警官は、オレの父親の若かりし頃に、少しだけ面差しが似ている。  だが、笑い方や仕草は全然違っていた。  手のひらの上の花びらが、かちりと音を立てる。  オレは目を細め、窓の外へ視線を移した。 「災難、ね……。案外そうでもなかったですよ」  そう言い返したオレの言葉が、負け惜しみなのか。それとも本心からだったのか。  隣にいる正義の味方には、絶対に分からないだろう。
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