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目を覚ますと辺りが薄暗い。小鳥の鳴き声が聞こえてきたから、おそらく夜明け前だろう。
「俺、気を失っていたのか」
腹の奥に重い痛みが感じられる。はしたない啼き声を上げていた自分を思い出し赤面した。
「鬼神のシュリ。……あいつ、今度会ったらタダじゃおかねぇ」
握りこぶしを作っていると、落ち葉を踏む音が聞こえてきた。外からだ。格子戸を開けると、なにかの肉を手にしたシュリと目が合った。
「やっと起きたのか。死んだのかと思ったぞ。腹が減っただろう、これを食べろ。雉(きじ)だ」
風に乗って焼いた肉の香ばしい香りが鼻をくすぐる。
昨日犯された恨みは忘れないが、腹が減っていると自覚するともうダメだった。肉を手づかみにして、社の階段に座り込み貪り食ってしまう。
「う、旨い! こんな山奥でご馳走を食べられるとは思わなかった」
焼きたての雉肉はとんでもなく美味だった。人目も気にせず夢中でかじり付いていると、クスクスという笑い声が聞こえてきた。
「気持ちのいい食べっぷりだな。獲ってきた甲斐がある」
俺を見る目が、まるで自分の子供を見守るように優しいから、変な感じだった。
「そんなにがっつくと喉に詰まるぞ」
「あんた、ここに一人で住んでいるのか? ……うぐっ!」
「言わんこっちゃない、水を持ってきてやろう」
神社の裏山のほうに去ったシュリが、今度は小さな徳利に水を入れ戻って来てくれた。飲むと、ただの水とは思えないほど冷たくまろやかで、体に染み渡るような名水だった。
「こんなに美味い水が東山にあったのか。知らなかった……」
「拝殿の山側に湧いている。鳥や動物が集まるから、これからは自分で獲って食べるといい」
「これから? どういうことだ」
シュリは知らぬ顔で渡り廊下へ進んでいく。渡り廊下でほかの社に繋がっているようだ。
「俺は今から眠る。陽の光があるうちは外に出られないからな。どこの部屋でも使うといい、ただし逃げることは許さない」
「なに勝手に決めてるんだ。田んぼを放っておけないから帰らせてもらうぜ。世話になったな」
「好きにしろ」
シュリが無愛想な顔で渡り廊下の奥の建物へと消えてゆく。なんだ、引き留めないなら楽勝だと、神社から走り去ろうとした。
拝殿の階段を降り、境内の石畳を踏んで鳥居から抜け出ようとする。
が、鳥居の辺りでなにかにぶつかり石の床に倒れ込んだ。尻をしたたか打ち付けて転んだとき、股のあいだからヌルッとしたものが流れ出た。手で掬ってみると、白くドロリとした液体だった。
「昨日、後ろに挿れられたときの……?」
今はそんなことに構っていられない。股から精液を垂らした無様な格好のまま、脱出すべく神社の敷地から踏み出した。
だが、神社の石が置かれた場所が見えない壁のようになっていて、そのたびに俺は弾かれてしまう。数時間格闘したが、結局一歩も境内から出られなかった。
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