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「すまない、リシャーナ。もうこれ以上手の打ちようが無い。不甲斐ない父をどうか許してくれ。10日後、アラド家の嫡男とのお見合いが決まってしまった」
伯爵家当主デューガ・エデュスは、床に額を擦り付けて娘に詫びた。
対して娘であるリシャーナは全てを諦めたような笑みを浮かべて膝を突き、父をそっと抱きしめた。波打つ亜麻色の髪が父と娘の表情を隠す。
「いいえ、お父様が謝ることなどありません。それより、これまでわたくしのワガママでお父様を困らせてしまったこと……本当に申し訳ございません」
「何を言っているんだっ。父は一度もお前に対して困ったことなどない!!むしろ、これは父が好き好んでやっていたことだ!!」
「え?あ、そうなんですか」
まさかの宣言に、リシャーナはきょとんとした。普段は憂いを帯びたラベンダー色の瞳は、こぼれ落ちてしまいそうなほど見開いている。
これはちょっと予想外だった。てっきり父は、自分のワガママに渋々付き合ってくれていたのだと思っていたのに。
ただこの行き違いは余りに些細なこと。
逃げに逃げ、避けに避けまくっていたお見合いの日取りが決まってしまったことの方が大問題である。
とはいえ相手は侯爵家。格下の伯爵家がこれまで逃げてこられたのが奇跡である。
もう腹を括るしかない。
それに、たった一度だけ彼に会えばそれで終わるだろう。よもや本気で自分を婚約者にしたいだなんて思うわけが無い。
だってお見合い相手の彼ーーエルディック・アラドは、自分のことを嫌っているはずだから。
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