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 観光は徒歩で行くらしい。いかついサングラスの男を筆頭に、温厚な顔つきをした大男、目付きの悪い金髪がぞろぞろと歩いていく。見た目が物騒な集団に道行く人が振り返っていく。周囲の視線に戸惑っているのは修也だけ。もっとも、三人のあとを付いて歩いている弱そうな男もその一味であるとは誰も思ってなさそうだが。  向かった観光地はいたって定番なものだ。サイゴン大教会にサイゴン郵便局。ピンクの色合いが鮮やかで可愛らしいタンディン教会。さすが東洋のパリと呼ばれるだけあってヨーロッパの名残がある。コロニアル様式の建物は、豪華で美しかった。ただ、「綺麗だな、すごいな」と小学生のような感想を素直に口にする修也と違って、祥平はあまり興味がなさそうだし、明弘は感情の分からない顔でぼんやりしているし、恭一は教会の真ん中で「俺、仏教徒だしな」なんて元も子もないことを言う。これほど同じ感動を分かち合えないグループがあるだろうかと残念な気にもなったが、これはこれで楽しかった。 昼食にフォーを食べてからはベンタイン市場で買い物をする。異様な臭いに鼻を突かれて一瞬だけ胃からフォーが出そうになったが、種類が豊富な服や雑貨のカラフルな店がぎゅうぎゅうに並んでいる光景がまた目新しくて気を紛らわせることができた。 「とりあえず服買っとけ。他にもいるもんあったら、なんでも言ってくれ」  当然のように「ん」と金を渡してくるので、さすがに断った。この金銭感覚には付いていけない。
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