1

1/15
前へ
/182ページ
次へ

1

 しょせん自分は碌な死に方をしないと覚悟はしていたが、さすがに身売りをさせられて終わるような人生は嫌だ。しかもその原因が濡れ衣だなんて、たまったものじゃない。 「だから俺は違う! あいつが勝手に逃げたんだ!」 「うるせぇ! なめくさりやがって! 逃げた奴は連れ戻して漁船に放り込んでやるから、てめぇは飢えたオヤジにたっぷり可愛がってもらいなァ!」  強烈な拳が左頬を直撃した。踏ん張りがきかずに背後のごみ捨て場に倒れ込む。大量のごみ袋がクッションになったおかげで衝撃は緩和されたが、とにかく臭い。  確かに振り込め詐欺なんて下等な犯罪に手を出したのが馬鹿だった。だが、単純に金が欲しいとか誰かを騙したいから加担したわけじゃない。祥平には別の目的があって、それを果たすための通過点に過ぎなかったのだ。それなのに目的を果たすどころか、一緒に組んだ仲間が大金に目が眩んで逃走した。そのせいで責任を取らされそうになっている。  自分よりひと回りもでかくて喧嘩慣れしている男相手にまともに応戦しても敵わない。こんなひと気のない路地裏では誰も助けになんか来ないだろう。が、祥平はすばしこさだけは自信がある。男が祥平を組み敷こうと近寄ったところで砂利を掛けて目を潰した。男が悶えているあいだに逃走を図る。 「こ……んの、クソがァ!!」  ――こんなところで諦めてたまるか!     俺はまだ死ねない。    絶対に正体を暴いて殺してやる!
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

978人が本棚に入れています
本棚に追加