危ない

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危ない

 小さい子供が赤信号の横断歩道に飛び出した。母親は交差点の近くで他の母親と井戸端会議中で気づいていない。  直進してきた青井 武治は子供が目に入った瞬間急ブレーキを踏んだが間に合わなかった。 『キキィー、ドンッ』 「ああ、やっちまった!」  急いで車を降りようとする青井。  その目の前に猫耳を付け、黒いピチッとした衣装を身に着けたスタイルの良い女性がボンネットに飛び乗った。ご丁寧に3本のしっぽまでついている。  いや、しかし、今はそんな変な奴と遊んでいる場合ではないのだ。子供をひいてしまった。早く警察と救急を呼ばないと。  青井が焦っていると、 「ねぇぇ?今の時間盗んであげようか?」  黒猫の女性がにっこりとしながら聞いてきた。 「え?何の時間を盗むって?」 「だ~か~ら~。今子供をひいちゃった瞬間の時間を盗んであげるって言ってるの。」 「そうすれば子供はまだ歩道の中だし、あなたはもうひとつ前の交差点にいるわよ。」 「そんなことができるならぜひ盗んでくれ!」 「とにかく子供が怪我をしていない状態にしてくれ。」 「OK!」  黒猫の女性が指をパチンと鳴らすと青井はひとつ前の交差点を青信号で走行していた。  なるほど。この後、子供が飛びだしてくるのだからスピードを緩めておこう。  ところがスピードを緩めると、後ろの車が我慢できずに青井の車を追い越した。 「ああ!だめだ。別の車が行ってしまった。」 路肩に車を止めて頭を抱える青井。  しかし、抜かした車は青井の走行していた車線より右の車線を走行し、井戸端会議中のママも子供の飛び出しに気づき、間一髪のところで横断歩道を少し出たところで子供を捕まえた。結果事故は起こらなかった。 「ああ、よかった。」  青井はほっとして大きく息をついた。  そこにまた黒猫のお姉さんが現れた。 「時間を盗んであげた見返りに私の時間も盗んでくれる?」 「ああ。時間を?どうすればいいんだ?」  青井はあまり面倒なことではないと良いと思いながら聞いてみた。 「私ね、永く生き過ぎちゃって今は猫又の姿になっちゃったの。」 「私の時間を盗んで、普通の猫に戻して飼ってくれる?」 「時間の盗み方が分からないが。猫ならうちにもいるから一緒でよければ家で面倒見るけど。」  黒猫のお姉さんは空に向かって叫んだ。 「神様~、商談成立~。私の時間を盗んで頂戴。」  ポンッと音がしたかと思うと、助手席にけっして小さくはない黒猫が座っていた。 「よし。約束だしな。時間泥棒もなかなか悪くないな。」  青井は自分の考えていた時間泥棒と随分違うな。と思いながら黒猫を連れて家路を急いだ。  
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